介護発生前に、必要な知識を持っておくことの重要性とは?~仕事と介護を両立するための企業の取り組み

経済産業省の「令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業」報告書によると、家族介護者の数は2020年の678万人から2030年に833万人、仕事をしながら介護をするビジネスケアラーの数は2020年の262万人から2030年には318万人に増加すると試算されています。介護中の従業員にいかに安心して働き続けてもらい、かつ時間の制約もある中で組織に貢献してもらえるかは、企業の人材活用においてさらに大きな課題となっていくと考えられます。

一方、介護負担が発生する前に、仕事と介護の両立支援に関わる情報を得ている人は少数であり、多くの人が必要な情報を入手しないまま介護に突入しています。

リクルートワークス研究所所員の大嶋 寧子は、ショートコラム『研究所員の鳥瞰虫瞰』の中で、仕事と介護の両立支援の充実や両立できる職場づくりを考える企業の人事担当者・管理職に向けて、介護発生前に従業員が両立知識を持つことが、介護発生後に従業員がスムーズに両立体制をつくることとどう関わるのか、会社がどのように支援することが、従業員自身が事前に必要な情報を入手することにつながるのかを、調査内容を基に考察しています。

リクルートワークス研究所が、現在介護をしている40~50代の正社員に対して行った「ビジネスケアラーの就業意識と経験に関する調査」(2022年)によると、介護開始時点で「勤務先の介護と仕事の両立支援制度について、知識を得ていた」人は17%、「介護保険制度や介護サービスについて、知識を得ていた」人は30%、「仕事と介護を両立するために、介護の専門家の手を借りることが重要であると認識していた」人は34%、「介護をする可能性のある家族・親族の交友関係やかかりつけ医などについて情報を得ていた」人は20%であり、逆にこれら4つのうち1つも該当しない人は43%を占めるという結果になりました。

また同調査によると、「仕事と介護の両立」に関する事前の知識がない人は、介護体制に目途がつくまでの期間が長い傾向にあることも分かりました。介護体制に目途がつくまでの期間に1年以上を要したとする人の割合は、事前の知識がない人では48%を占めたのに対し、事前の知識がある人では26%にとどまっています。

事前の知識と介護発生後、料率の体制に目途がつくまでの期間

介護開始直後は、精神的な不安や負担に加えて、手続きや施設などへの訪問、家族での話し合い、介護サービスの決定など、さまざまなことを試行錯誤しながら進める必要があります。円滑に仕事と介護の両立を始め、過度な不安なく働き続けるためには、介護開始前に適切な知識を持つことが重要であることが、これらの調査結果から見て取れます。

では、そのために企業はどのような取り組みを行えばいいのでしょうか。

リクルートワークス研究所が2020年に行った「介護に直面した正社員の就業に関する調査」によると、介護開始前に(1)会社による研修や情報提供を受けたこと(2)上司と介護について会話したこと(日常会話、面談)(3)職場に仕事と介護を両立している人がいる(いた)こと(4)危機感を覚える状況(事前に自分が介護を担うことを意識する機会、締切や納期に追われる仕事)があったことの4つが介護を開始する前の自発的な備えに関わっていることが分かりました。

以上のことから、企業は介護に当たる可能性がある全ての従業員に対し、多様なチャネルを利用しながら「事前の知識武装の大切さ」を伝えることが重要だといえるでしょう。また、管理職および、管理職となり得る人に対して介護に関する研修を行ったり、社員の体験談の広報や介護者と交流できる場を設けて「自分ごと」として考える機会を設けたりすることも、一定の効果が期待できると考えられます。

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