ニッチ家電の覇者ドウシシャに聞く、スピード感と楽しむ姿勢を両立する組織づくり

ニッチ家電の覇者ドウシシャに聞く、スピード感と楽しむ姿勢を両立する組織づくり

文:浅原 聡 写真:佐坂 和也

常識にとらわれず、ニッチな市場を次々と開拓する「つぶれないロマンのある会社」

"焼き芋メーカー"や、"電動ふわふわとろ雪かき氷器"、"サーキュレーター付きシーリングライト"など。ニッチな需要に圧倒的に応える商品を次々と生み出す株式会社ドウシシャ。他では聞いたことのない挑戦的なプロダクトを創造し続けながらも、企業としては安定した業績をあげ続けている。その秘訣と商品開発の舞台裏を、第2事業本部の本部長専務執行役員としてものづくりの舵を取る井下 主(いのした・つかさ)さんに語ってもらった。

ニッチ市場で圧倒的に勝つ生存戦略

― 焼き芋メーカーや電動ふわふわとろ雪かき氷器など、ドウシシャは幅広い商品を展開しています。どんな戦略で新商品を開発していますか?

井下  弊社は大手メーカーと開発競争を繰り広げるのが苦手でして、他社が手を出さないようなニッチ市場でナンバーワンになることを狙っています。例えば家庭用のかき氷器の市場は年間約80万個ほどですが、そのうち50万個は弊社の商品。最初は誰も見向きをしないようなジャンルでも、トップに立てば知名度が上がり、売り上げの伸びしろが期待できます。ニッチ市場ゆえに、後から参入してくるメーカーもほとんどありませんしね。

『とろ雪Wふわふわ電動かき氷器』
『とろ雪Wふわふわ電動かき氷器』

― どんな経緯でニッチ市場に特化するスタイルが確立されたのでしょうか?

井下  契機となったのは、家庭用クリスマスイルミネーションの担当部署での経験です。私が配属された当時は赤字で、会社からも期待されていないような状況(笑)。だからこそ、ダメ元でのびのびと挑戦できたんです。

安全に扱える低電圧の電球を開発したり、4月に同業他社のどこよりも早く展示会を開いたり......。業界の常識を無視してあらゆる施策を打ち出しました。結果的に2003年ごろから家庭用のクリスマスイルミネーションが社会的なブームになり、弊社はシェア1位のポジションを確立できました。

アイデアがダダ漏れでも構わない。圧倒的なスピード感覚

― 常識にとらわれない施策によって、ニッチ市場で戦うノウハウを培ったと。

井下  家庭用クリスマスイルミネーション市場で経験から、次第に他の分野でもスピード感を大切にするようになりました。開発途中の商品もどんどん見せるのが我々のスタイルで、企業秘密は実質ダダ漏れ(笑)。非常識に見えるかもしれませんが、早い段階でお客さまの声を拾えるメリットのほうが大きい。指摘されたポイントを改善すれば、意見をくれた人は必ず買ってくれる、という手ごたえも得られました。

― 商品開発の時短につながり、リスクヘッジにもなっているわけですね。

井下  そうですね。日本は欧米に比べると商品のライフサイクルが短いと言われてます。ロングヒット商品を量産するのは難しいからこそ、次々と新商品を出すことが生き残る道だと思っています。それなら、どんどん情報を公開し、リスクを回避しながらおもしろいアイデアを取り入れていくべきだと。

また、自分たちのアイデアや技術をスピーディーに世間に広めるために、他者とのオープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます。近年は大幸薬品さんと協力して、衛生管理製品「クレベリン」の名を冠した加湿器を作りました。商品特性を伝えるために独自の表現や新しい製品名を考えてイチから宣伝するよりも、圧倒的に早く除菌・消臭機能を訴求できますよね。ものづくりに余計な見栄やプライドは必要ない、と私たちは考えています。

魅力的な製品を生み出す、開発者の背中を押す組織

― たとえ身軽に商品開発を行う気持ちがあっても、ニッチ市場はそう簡単に見つけられるものではないのでは?

井下  おもしろいアイデアをすくい上げるためにも、オフィシャルの会議は「開発承認」と「発売承認」の2回だけしかやりません。そして、アイデア段階ではどんな商品も否定しない。モットーは「初動は軽く、意思決定は早く」。「やる/やらない」を判断する会議が増えると、どこかで反対意見が出たら開発を止めてしまうと思います。やらないための会議は必要ない。これも、社内で自由に動くことができたクリスマスイルミネーション担当時代に学んだことの一つです。

― 実際に部署内は企画を通しやすい風土が築かれているのでしょうか?

井下  前提として、良いアイデアをたくさん揃えるだけではヒット商品は生まれません。我々も大学生や専門学校生を集めて何度もコンペを開催してきましたが、目立ったヒット商品は生まれませんでした。つまり、アイデアはものづくりにおけるひとつのパーツにすぎない。魅力的なアイデアを完成品として世に出すためには、我慢強さや勇気も必要です。

私自身、商品開発の担当をしていた頃は「本当に上手くいくのか」と不安に駆られることは何度もありました。ですから、我々は開発者の背中を押すことも大切にしています。「ええやん」と共感することもあれば、独りよがりな企画にならないように「なんでやねん」と動機を聞くこともあります。

また、相手を「自分」と呼んで関西流の敬意を示しながら、優れたアイデアは「おもろいやん」とフラットに評価する。そして、「やったらええやん」と挑戦を促すことで開発者が直面する失敗の恐怖を和らげる。「ええやん」、「なんでやねん」、「自分」、「おもろいやん」、「やったらええやん」、それぞれの頭文字をつなげた「ENJOY」が、我々のものづくりのスピリッツです。

― 総じて「ENJOY=楽しむ」ことが大切だと。

井下  ものづくりをする側が楽しんでいないと、ユーザーに楽しんでもらえる商品は生まれませんよね。これは間違いありません。「会議で何人が賛成したら商品化する」といった杓子定規なルールは存在しませんが、そんな独自のフィルターを設けて商品を開発しています。

― 「おもろい」アイデアを積極的に採用する一方で、会議でストップがかかる企画の特徴はありますか?

井下  開発を繰り返してきたなかで、「ニッチのニッチ」を追いかけた場合は失敗する可能性があることがわかってきました。マニアックな機能を追求しすぎると、だいたい売れません(笑)。

ですから、ニッチすぎる企画は控えるようにしていますが、その判断が難しいところ。なにしろ、多機能の調理家電が増えている時代に、焼き芋しか焼けないホットプレートが売れることもあるし、「台湾風のかき氷が作れる」というニッチの中のニッチ商品もあるので......。私個人が「ニッチのニッチ」に当てはまりそうだと思ったケースでも、やはり何人かが「おもろいやん」と思ったアイデアは今後も積極的に採用していきます。

22の部門全てで独立採算。「つぶれない」を実現する組織

― 井下さんが担当する事業本部以外の部署でも、同じようなマインドセットで商品開発を行っているのでしょうか?

井下  いえ、他の部門とはものづくりの基準がまったく違います。たとえばアパレル部門はトレンドも加味しながら新商品を検討しなければならないし、収納家具の部門は堅実な戦略で王道的な商品も展開しています。現在、弊社には22の部門があり、半分がものづくりで半分が卸売り。私が管轄する第2事業本部は、その半分を担っています。

ただ、22の部門は、それぞれが独立採算でものを作ったり卸したりしていることが特徴です。売り上げも卸売りとものづくりは半々なので、大きなトラブルがあってひとつの市場がダメになっても、会社全体の業績が急激に悪化することがありません。

― 経営面でもリスクヘッジの仕組みができているわけですね。昨今は企業の平均寿命が20年と言われる時代ですが、ドウシシャは1974年の創業当時から「つぶれないロマンのある会社」を理念に掲げています。今後はどんなビジョンで強い会社を作っていくのでしょうか?

井下  弊社は年商100億円の事業を30に増やすことを目標としており、今後も収益の柱となる事業を増やし、新たな市場の創造と会社のリスク分散を同時に実現することを目指しています。社内ベンチャーのように、社員が手をあげれば新たな部門を立ち上げやすい制度も整えています。

ものづくりにおいても、目まぐるしく消費市場が変動するなかで、常に新しいことにチャレンジし、社会に定着させていく努力をしなければなりません。「現状維持でいい」と思うのは間違いであり、既存の商品も、その時代に合わせて変えていく必要があると思っています。

― 最後に、井下さんが現在最も「おもろい」と思っている自社製品は?

サーキュライト ソケットモデル
サーキュライト ソケットモデル

井下  サーキュレーター付きのLED照明『サーキュライト ソケットモデル』ですね。トイレのようなスペースもコンセントの数も限られた場所でも、備え付けの照明のソケットに差し込むだけで光と風を届けてくれるんです。これ、すごいでしょ?(笑)。 これからもニッチ市場を創造して、まだ顕在化していない消費者のニーズを拾い上げていきたいですね。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

井下 主(いのした・つかさ)
株式会社ドウシシャ 専務執行役員 / 第2営業本部 本部長

1987年入社。かき氷器やステンレスボトルなどのライフスタイル雑貨や、扇風機や加湿器や照明などの家電の開発を統括している。

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