落語を拡張・再解釈する。「Z落語」の4人に聞く2000年代生まれの世代観

シリーズ

Z世代の視点

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文:葛原 信太郎 写真:須古 恵 (写真は左から桂枝之進さん、大久保空さん、速水駿さん、いんちょーさん)

落語とDJが交互に出演するイベント、伝統芸能のオノマトペをブランド名にしたアパレル、5Gをつかった配信実証実験…落語家の生態系を拡張するクリエイティブチーム「Z落語」の4人に聞く同世代の価値観

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らは、「スマートフォンが当たり前」「大災害による社会の混乱」「SNSで世界中と交流できる」など、まったく新しい環境で育っており、「社会課題への意識が高い」「学校・会社以外のコミュニティを持つ」「慣習に縛られず一直線に目的を目指す」といった傾向が強いそうだ。

今回話を聞いたのは、落語をZ世代の目線で再解釈する「Z落語」の桂枝之進(かつら・えだのしん)さん、速水駿(はやみず・しゅん)さん、大久保空(おおくぼ・そら)さん、いんちょーさんの4人。落語家とクリエイターが手を組み、落語を主軸に起きつつも、伝統に縛られないプロジェクトを次々と発表している。前編では、あえて落語らしさから距離を取る彼らのクリエイティビティとその背景にあるコミュニケーション思想について聞いた。

コロナ禍をきっかけに、Z世代へのアプローチをスタート

── まずは皆さんがどのように出会い、Z落語が生まれたのか教えてください。

桂枝之進 元々、僕が3人それぞれと友達同士だったんです。ただ、まさかこんなふうに一緒に活動するとは思ってませんでした。

僕は15歳で師匠に弟子入りし、大阪を拠点に落語家として修業をしてきました。とても充実していましたが、落語家にもお客さんにも同世代がいないことに少し寂しさも感じていました。その後、東京に出ていろんな場所に出向いたり、落語会を開いたりするなかで、同世代の異なる領域で活動している人たちとつながることが増えていきました。

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クリエイティブディレクター / 落語家の桂枝之進さん

── 東京に出るようになり、同世代の関係性が増えていかれたんですね。落語家としても、お忙しかったのではないでしょうか?

桂枝之進 少しずつオファーも増え、落語を披露する会場も広くなり、モチベーションも上がり調子でした。

状況が変わったのは去年、2020年の3月頃です。コロナ禍で落語の仕事が一気になくなり、スケジュールが白紙になってしまった。当然焦りはあったのですが、こうなってしまった以上なにか新しいことにチャレンジするしかない、とも思いました。そのとき頭に浮かんだのは、これまでずっと温めてきた落語を同世代に広げるアイデアでした。

── 具体的にはどのようなことを?

桂枝之進 最初は、5Gを使った落語のライブ配信です。渋谷のクリエイターの支援施設が、実証実験のアイデアを募集していたのを目にし、落語会の配信を提案しようと思い立ちました。まずは企画書が必要なのですが、当時僕はパソコンを持っておらず、あらゆることをスマホでやっていたんです。さすがにスマホでは企画書は作れないので、Instagramのストーリーに「デザインをできる人を探してます」ってポストしたら…駿が2秒くらいで返信をくれたんです。

── え?2秒!速いですね。

速水駿 秒でレスしました。いつもSNSを見てるんで(笑)。

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アートディレクター/デザイナーの速水駿さん

桂枝之進 僕がイメージしていることをテキストで送ると、駿がどんどんビジュアル化してくれて、あっという間に企画書ができました。その勢いに乗って「よし、応募しよう!」と、改めて募集要項を見たら「プロジェクト名」と「3人以上のメンバー」が必要だったんですよ。

── メンバーはともかく、プロジェクト名もなかったんですか…。

桂枝之進 はい(笑)。ひとまずメンバーがあと1人必要だと分かったので、プロジェクトを動かすには他にどんな人がいたらいいかを考えました。5Gで落語を配信しても、それをリアルタイムで見られる人は限られてしまう。そこで、落語会を映像作品にして、あとから見られるようにしたいと思ったんです。その数ヶ月前に映像編集が専門の(大久保)空とお茶をしていたことを思い出し、3人目のメンバーとして誘いました。

大久保空 面白そうだったんで、すぐに参加を決めました。

いんちょー 仲間と出会っていく桃太郎みたいだね(笑)。

── いんちょーは、どこで仲間になるんですか?

桂枝之進 別件のオンライン会議中に、「3Dプリンターで扇子を作ろう」というアイデアが出たんです。そこに同席していたのが、いんちょーでした。いんちょーは「じゃあ、僕が3Dデータを作るよ」と画面共有をしながら作業をはじめて、30分くらいで扇子の3Dデータを作っちゃったんですよ。こんなことできる人がいるなんて、びっくりして。

いんちょー ただの細長い棒なんで、簡単なんですよ(笑)。

桂枝之進 いやいや、そんなことないでしょう(笑)。だって、ここの曲線をもっと…とか、ここの細さがとか、僕が言うわがままをその場ですべて形にしてくれるんです。これ、絶対一緒にいてもらったほうがいい!と思い、誘いました。

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テクニカルディレクター/ エンジニアのいんちょーさん

── なるほど。桂枝之進さんに声をかけられた時点では、みなさんが落語に興味や関心はあったのでしょうか?

速水駿 自分の落語のイメージと言えば「笑点」くらいでしたね。Z落語を始めてから、少しずつ情報もチェックするようになり、今では好きな落語家さんが言えるくらいには知識が増えました。

大久保空 僕も「日本の伝統文化に関わる映像を作りたい」という漠然としたイメージを持っていたくらい。でも枝之進と一緒に寄席に行ってみたら、寄席の会場がクラブのように思えてきたんです。

今の寄席はコロナの感染予防で飲食はできませんが、普段はお酒や軽食を食べながら落語を聞ける。落語家さんはその場の空気を作っていて、クラブでいうDJのようにも見えました「今も昔もみんなが楽しいと思う場所って同じなんだ」と思ったのをよく覚えています。

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映像ディレクター / フォトグラファーの大久保空さん

いんちょー 僕にとっても、落語や寄席は決して身近なものではなかったですね。でも、新しいことに挑戦するのは大好きなんです。枝之進と出会って、これまで足を踏み入れなかった世界でいろいろ活動できるのは純粋に楽しいです。

桂枝之進 今、落語という伝統的な世界で活動しようと考えている人は、落語がとても好きな人が多いはずです。そういう人の視点からは落語から離れた新しいアイデアが生まれ難いと考えました。だから、僕には落語に興味がない仲間が必要だったんです。今も落語に詳しくなってもらいたいとは思っていません。

パソコンがなくても、スマホ2台でオンライン会議

── 改めて、それぞれの役割を教えてもらえますか。

桂枝之進 僕は落語家として、落語を披露するのとともに、クリエイティブ全体のディレクションもやっています。

大久保空 僕はプロジェクトを映像に収めて作品に仕上げていきます。Z落語では「Not a TL」という、Z世代クリエイターをゲストに招いた対談番組を作っているんですが、撮影から編集まですべて担当しています。あとは、InstagramのAR機能を使ったコンテンツもつくりますし、写真の撮影も担当します。

いんちょー 僕はエンジニアです。最初は扇子担当でしたが(笑)、今はAI落語を作っている最中です。

── AI落語、ってどんなものですか?

桂枝之進 僕も最初に「AIで新しい落語が作れるんじゃないかな?」といんちょーから言われたとき、びっくりしたんですよ。でも、大量のデータを分析して、その傾向から新しいものを生み出すというAIの仕組みを聞いたら、たしかにできるかもしれないと思ったんです。落語には膨大な数の古典がある。しかも、そのテキストはある程度デジタルアーカイブされていますから。

落語家は、古典落語を覚え、それを発展させて新作落語を生み出すことがあります。でも、それはあくまでも人の想像力に頼るもの。AIが落語を学習して、新しい落語を生み出すことができるなら、将棋で言うところの電王戦のように、これまでとは異なる新しい落語の世界が広がると考えています。

速水駿 自分はアートディレクションですね。必要なものはなんでも作ります。フライヤー、ロゴ、資料などのグラフィック類から、Webサイト、イベントをやる時の小道具も作ります。最近は、自分一人では手数が足りなくなってきているのもあり、ディレクションに回ることも増えました。「ZuZuZuit!」というZ落語のアパレルは、イラストレーターさんにビジュアルを発注し、自分は全体のコーディネートをしています。

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── Z落語のデザインは、どのように決めていったのでしょうか?

速水駿 デザインに関する議論は、すべてオンライン上で進めました。コロナ禍もありますし、住んでいる場所もみんなバラバラだったので。

桂枝之進 Slackでデザイン案を見て、僕がそれにリアクションして…。っていうのを、全部スマホでやってました。パソコンは持ってなかったけど、スマホは2台持っていたんです。1台をカメラ専用にして、もう1台で画面を確認したり、コメントを入れたり。パソコンが必要なときは、他のメンバーにそれぞれお願いしたりして。

── パソコンを買おうとは思わなかったんですか。

桂枝之進 買って操作方法を覚える時間がもったいないなと思ってたんです。インターネットもコミュニケーションもずっとスマホだったので、スマホのほうが文章書くのも速いし正確なんですよ。でも、知り合いのプログラマーがパソコンを余らせてるって言うんで、去年の年末に安く譲ってもらいました。ちょっと見せてもいいですか。

── ステッカーがたくさん貼ってありますね。こんなMacBookを持ってる落語家いないかもしれませんね(笑)。

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桂枝之進 そうでしょ?あ……でも、今、バッテリーがないですね…。落語家なんで、やっぱり持ってるだけでした。

一同 あはは(笑)。

拡張する落語家の生態系

── ここまでみなさんのお話を伺う限り、あまり「落語」感がありませんね。Z落語にとって、落語はどんな存在なのでしょうか。

速水駿 「Z落語」って名前なのに、アパレルをやってみたり、映像やインタビューをアーカイブするメディアをやったりといろいろあるので、自分たちでも説明するのが大変なんですよね(笑)。最近は、こんな図で説明してます。

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速水駿 真ん中には落語があります。なので、どんなに領域が広がっても落語なんですが、落語が持っている要素を、僕たちなりに再解釈して、自分たちの世代観とミックスし、いろんなアウトプットにしてで発信している感覚です。アウトプットは、必ずしも典型的な「落語」とは遠いかもしれません。その遠さも「Z落語らしさ」だと思っています。

── 2020年の年末に開催したイベント「YOSE」は、どんなイベントだったのでしょうか。

速水駿 江戸時代において文化や交流が生まれる場所だった落語の寄席と、Z世代にとっての"寄席"のような場所であるクラブをあわせたイベントです。

桂枝之進 YOSEは「新しいコミュニケーションが生まれる場」というテーマを掲げました。というのも、2020年9月にZ世代に向けて落語に関するアンケートをとったんです。落語を見に行った回数を聞いてみたところ、0回と1回がそれぞれ約40パーセントでした。多くの人は見たことがないか、見に行ったことがあってもリピートするほどの興味はない。ただし、休日に落語デートに誘われたとしたら、約54%が快諾する。27%がもう少し詳しく話を聞くと答えてくれました。

── 何かしらのきっかけがあれば、見に行ってくれそうですね。

桂枝之進 そのきっかけをつくるには、落語の世界からではなく、落語以外の接点が必要だと考えたんです。Z落語のメンバーは、ぼく以外落語への興味が強くなかった人たち。だからこそ、伝統的な世界に縛られないクリエティブをつくることができる。これを僕は「落語家の生態系の拡張」と表現しています。

基本的に、落語家は個人で動きます。落語会を開くときも、会場や内容を決めてチラシを発注して宣伝してと全部1人でやることが多い。でも、1日は24時間だし、1人でやれることには限界があります。Z落語をスタートさせて、メンバーと協力して動くことで、可能性はどんどん広がることを実感しました。

同世代らしい方法で落語をアウトプットしていく。落語を知らない人と一緒に、落語を知らない人たちへ落語を届けるには、「越境」が大事だと思っています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

桂枝之進(かつら・えだのしん)

クリエイティブディレクター / 落語家。2001年6月20日生まれ。5歳から落語を聴き始める。2017年1月 中学在学中に六代文枝一門三代目桂枝三郎に入門。2017年12月 天満天神繁昌亭「枝三郎六百席」にて初舞台。関西を拠点に寄席やイベント、メディア等で活動するほか、2020年、落語クリエイティブチーム「Z落語」を立ち上げ、渋谷を拠点にZ世代の視点で落語を再定義、発信するプロジェクトを主宰している。

速水駿(はやみず・しゅん)

アートディレクター / デザイナー。2002年生まれ牡羊座。2017年にライブコマース領域での起業に向けて活動を開始。翌年よりデザイナーとしての活動を開始し、スタートアップ2社でのUI/UXデザイナーを経験。2020年6月の「VRで見る4人展」をきっかけにアートワークの作品の制作も行う。2020年8月より落語家、桂枝之進主宰のZ落語のアートディレクターを務める。現代美術、日本庭園が好き。

大久保空(おおくぼ・そら)

映像ディレクター / フォトグラファー。2000年生まれ。 高校1年から写真を始め、東京工芸大学写真学科に所属。独学で映像を学びながら、渋谷WOMBでのイベントアフタームービー撮影始め、MV、PVなど様々な映像製作。 映像、写真を中心にしたクリエイティブチームを2019年に組み、インバウンド向けのサービスを開始、活動中。

いんちょー

テクニカルディレクター / エンジニア。2000年生まれ。幼少期から想像することが好きでものづくりを続ける。現在は電子工作とプログラミングを主に行い、インターネットと人とものを繋げる作品を制作。大学に通いながらNPO法人副代表理事兼エンジニアとして活動中。

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1990年代中盤以降に生まれた、新たな価値観を持つ新世代「Z世代」。幼少期からインターネットが身近に存在し、思春期にはスマートフォンもSNSも当たり前に存在する―。こうした環境は、個人が触れられる情報量や人々の関係性、物事の捉え方を大きく変化させてたといわれている。これからの社会の中核を担っていくこの世代独自の価値観を、多様な方面から紐解いていく。