2000年代生まれ「Z落語」の4人に聞く「みんな、洒落。」に込めた世代観

シリーズ

Z世代の視点

z-rakugo02_main_common
文:葛原 信太郎 写真:須古 恵 (写真は左から速水駿さん、いんちょーさん、桂枝之進さん、大久保空さん)

気質や言動があか抜けていて、物事にこだわらないことを意味する「洒落さ」を大切にする Z落語。彼らから学ぶ、2000年代生まれの世代観とは

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らは、「スマートフォンが当たり前」「大災害による社会の混乱」「SNSで世界中と交流できる」など、まったく新しい環境で育っており、「社会課題への意識が高い」「学校・会社以外のコミュニティを持つ」「慣習に縛られず一直線に目的を目指す」といった傾向が強いそうだ。

今回話を聞いたのは、落語をZ世代の目線で再解釈する「Z落語」のメンバーである、桂枝之進(かつら・えだのしん)さん、速水駿(はやみず・しゅん)さん、大久保空(おおくぼ・そら)さん、いんちょーさんの4人。落語家とクリエイターが手を組み、落語を主軸に起きつつも、伝統に縛られないプロジェクトを次々と発表している。後編では、彼らのタグラインである「あえて、洒落。」を通じて見える柔軟な思考とその背景にあるZ世代の世代観に迫った。

前編:落語を拡張・再解釈する。「Z落語」の4人に聞く2000年代生まれの世代観

7つの原理とタグラインが定める「Z落語らしさ」

── Z落語では「世代観に根ざしたクリエイティブ」を大事にしていますね。この世代観について、どう考えていますか。

桂枝之進 Z落語では自分たちを表す「7つの原理」をまとめています。これはZ落語が考えるZ落語らしさであり、同時にZ落語が考えるZ世代の世代観でもあると思います。

速水駿 Z落語は、落語家集団でもないし、会社ではないし、ビジネスプロジェクトでもない。他人から見たらよくわからないと思うんです。だから、自分たちらしさをなるべく、言葉やビジュアルで表現したほうがいいと考えました。

僕はこれまでいくつかのスタートアップ企業に所属してきたので、ビジネスでよく使うビジョンやミッションという形でまとめるのはどうかと、枝之進に提案したんです。そうしたら「いや、ちょっと違うかも」と。そのあと7つの原理の原型が送られてきたんです。

写真
左から、クリエイティブディレクター / 落語家の桂枝之進さん、映像ディレクター / フォトグラファーの大久保空さん

桂枝之進 7つじゃなくて、5でも10でも良かったんです。とにかく思いつく限りたくさんの言葉を書き出しました。Z落語が存在している意味や、どんな組織でありたいか。そのあと、徹底的に消込みました。それでもなお残ったのがこの7つです。僕らの世代全員を象徴する価値観が見つかったとは思っていないのですが、表すに足るんじゃないかと。

速水駿 7つの言葉がポンポンポンとLINEで送られてきて、やっぱすげえなって(笑)。自分たちがぼんやり思っていたり、感じていたことが、スバって言葉になっていたんです。

桂枝之進 いやぁ、うれしい。聞いていて気持ちよくなっちゃいました(笑)。

── みんなで考えたんだろうと勝手に想像していたんですが違うんですね。すごい。

桂枝之進 いやいや(笑)。ありがとうございます。今夜お酒はおいしく飲めそうです(笑)。

写真

── みなさんそれぞれ、特に自分に当てはまると思うものはどれですか。

いんちょー 僕は「好奇心を持つ。」ですね。エンジニアは、常に好奇心を持って取り組まないと、いつの間にか時代に取り残されてしまう職業。常にあらゆる要素の新しいものにアンテナ張っていたいし、実際に新しいことにどんどんチャレンジしたいです。

大久保空 僕もいんちょーと同じですね。今は、スマホのカメラや加工の質があがり、誰だってそこそこの映像や写真が撮れる時代。それらを遥かに超えていかないと、プロフェッショナルではいられません。常に新しいことに興味を持って、素早くアウトプットしていく。クリエイティブな仕事に関わる人に、広く当てはまる言葉だと思います。

速水駿 自分は「アイデンティティを守る。」が大事だと思っています。アートディクレターとして「Z落語らしさ」をどう表現するかを試行錯誤してきました。同時に「自分たちのアイデンティティは何だろうか」ということもよく考えます。自分や自分たちのアイデンティティを考えること、適切に伝えることに、随分と時間を使っていますね。

桂枝之進 僕も「アイデンティティを守る。」は大事にしています。落語家として何を残して、何を変えていくかは、僕が一生考え続けるテーマ。そのためには「水平に見る」必要があると思うんです。つまり、落語だけにフォーカスするのではなく、物事を横断的に見なくてはいけない、と。

写真

速水駿 でも今、やらなきゃいけないのにやれていないことがたくさんあって…。「今」、本当に必要なのは「すぐにやる。」ですね。

一同 (笑)

速水駿 その意味でも、時間をおいて同じことを聞かれたら、違うものを選ぶかもしれないですね。状況も考え方も変わっていくので。

── 逆に、どのタイミングでも変わらず持ち続けるような価値観のようなものはあるのでしょうか?

桂枝之進 7つのステートメントを抽象化した「みんな、洒落。」というタグラインがそれかもしれません。僕は「洒落」という言葉がとても好きなんです。今でこそオシャレやダジャレという言葉として残っていますが、本来の意味は「あか抜けていて、物事にこだわらない」こと。落語を同世代に伝えていくために、今までの常識や伝統にこだわらない。本当に大事なことを大切にするために、変わっていくことを恐れてはいけない。そんな姿勢を表しています。

写真

「Z世代」は、コラボレーションを促す共通言語

── そう捉えると「Z世代の世代観」も変化していくのかもしれませんね。

いんちょー 正直、Z落語として活動するまで、僕は生まれた年代によって「○○世代」と名前をつけ、その傾向が語られていることすら知りませんでした。なので、「Z世代」と言われても「よくわかんない」というのが本音です。ぶっちゃけ,同世代よりもおじさん世代とのほうが話が合うことが多いんですよ(笑)。

── それでも、あえて特徴を挙げるとしたら?

いんちょー これを世代観と言っていいのかはわかりませんが、カオスな人が多くて、みんなと一緒のことをしなくても浮かないこと、でしょうか。僕は、機械をいじることやプログラミングが好きで、小さい頃からそういうことばかりやってきたんです。いわゆるオタクなんですけど、これが20年前だったら、隅に追いやられ煙たがられるような存在だったと思うんです。でも最近は「パソコンできるの?プログラム書けるの?いいね!」と前向きに捉えてくれるようになった。社会の変化もあると思いますが、「それぞれだよね」っていう前提もあるように感じます。

── なるほど。たしかに過去のZ取材企画でも、そういった傾向は感じました。

桂枝之進 僕は「Z世代」という言葉を、そのまま「同世代」って意味で使っています。他の世代の人も、それぞれ同世代同士でつながっていて、ミレニアル世代とか団塊の世代ってカテゴライズされているわけじゃないですか。だから世代観というのは、どの世代にもある「同世代が共通して見てきた景色」にもとづく価値観や、その価値観をもとにした考え方や行動でしかないんじゃないかと思うんです。

例えばZ世代が多用する「エモい」という言葉は、情緒的な有り様の形容詞ですが、それはなにか具体性があるというよりも、僕らの世代が共通して見てきた風景に根ざしている表現だと感じています。もちろん、住む場所も価値観も違うので、まったく同じ景色を見てきたわけではありませんが、それぞれが見えている景色をシェアして、確認し合って、重なり合う真ん中を「エモい」と呼んでいるんだと思うんです。「Z世代とは」という問いに答えるのは、難しいといえば難しいんですけど、僕らの世代観は僕らのクリエイティブに反映されているはずです。

── 意識的にも、無意識的にも「共通言語」があるようなイメージでしょうか。

速水駿 そうですね、世代観はコラボレーションするときに必要な「共通言語」かもしれません。デザイナーとデザイナー、エンジニアとエンジニア、落語家と落語家というように、同じ職域の人とはすでに共通言語を持っている。でも、例えばエンジニアとデザイナーだと共通言語は限定されます。そんなとき、「同世代であること」はとてもわかりやすい共通言語になるんです。

正直、Z落語を始める前は「Z世代」自体をバーンと表に出すことに戸惑いもありました。Z世代だっていろんな人がいますから。でも活動を広げる中で、世代が一緒だからこそ持てる「バイブス、合うよね」?みたいなノリは大事にしたいなって。

写真
左から、アートディレクター/デザイナーの速水駿さん 、テクニカルディレクター/ エンジニアのいんちょーさん

大久保空 他の仕事で様々な世代とのやりとりがあるんですが、同世代にしか伝わらないバイブスはあると思います。他の世代の人と仕事すると「言葉にしなくても伝わるでしょ」って思ったことが伝わらないことはよくあるんです。同世代同士であれば、説明が少なく済む分、物事が進んでいくのも早い。すぐ行動に移してアウトプットできるような勢いを出していくには、同世代が一番だと思っています。

── Z落語は、「Z世代同士のコレクティブ」と名乗っています。これにも同世代の仲間といった意図があるのでしょうか?

速水駿 そうですね。「コレクティブ」は、現代アートの世界から始まった言葉です。はっきりとした定義はまだないようなのですが、同じ目的を持ちつつもヒエラルキーはなく、アイデアや能力をシェアし合いながら、個人主義を超えてなにかを成し遂げようとしている共同体——という点は共通しています。自分たちにとって、Z世代であることはこの「コレクティブ」の中の共通言語のようなイメージですね。

相互依存ではなく、相互促進を

── みなさんはZ落語だけでなく学業や他の仕事もありますよね。今後、ライフステージが変わっていくと、活動に割けるリソースも変化していくと思いますが、今後の活動についてどう考えていますか。

桂枝之進 すでに、みんなとても忙しいですね。

大久保空 確かに。

いんちょー Z落語は別腹だからね。

一同 (笑)

いんちょー 他の仕事が大変だからこそ、別腹が必要だと思うんです。「みんな、洒落。」というタグラインのとおり、忙しくて視野が狭くなっているときに、ふと落ち着かせてくれるような存在がZ落語です。

桂枝之進 ドイツの出身の思想家のハンナ・アレントは人間の活動力( 働き動く力)には「労働(labor)」「仕事(work)」「活動(action)」があると言いました。労働は人が生命を保つために必要な食べ物の調達や生産行動。仕事は消費の対象の対象をつくる行動。活動は物が介入せずに言語によって人と人が関わり合っていく行動だとしています。この3つのバランスが大事なわけですが、Z落語はかなり「活動」だと思います。

── Z落語の「活動」を続けていくために大事にしていることはありますか。

速水駿 Z落語では「相互依存ではなく、相互促進」であることを大切にしています。つまり、もし誰かがZ落語を離れたとしても、代役を立てるのではなく、形を変えて活動を続く状態を保ちたいという意味です。

大久保空 僕はアルバイトでパソコン関連の小売店で働いているのですが、修理する人、使い方をお客さんに教える人、レジをやる人という具合に役割分担がはっきりしていて、互いに依存性が高いんです。誰かひとりがいなくなると、お店が回らなくなる。相互促進を意識しないと、どうしても相互依存になってしまうのだと感じます。

いんちょー 僕は先日まで、おもちゃ屋さんでアルバイトしてたんですね。6年も働いていたので、アルバイトながらそれなりに裁量がある役割を任せてもらっており、辞めることを躊躇していました。でも、尊敬している上司から「いんちょーくんの替わりを誰かがやることはできないけど、いんちょーくんが辞めることで他の人がその人なりのやり方で頑張って成長していける可能性が生まれるから」と言われたんです。組織の流動性って大事ですよね。常に新しい風が吹き続けないと、新しいものが生まれない。

── 逆に、原状に固執することが可能性を狭めてしまうみたいなイメージでしょうか。

桂枝之進 Z落語のメンバーだからといって、ずっとリソースを割き続けてもらいたいとはまったく思っていないんです。むしろZ落語を10年も20年も続けようとは考えていません。これから、就職したり転職したり、人生の変化があると思うので。

ただし、同世代のコレクティブは、ずっと続けていきたいと思っています。そのときは、もっといろんな人が関わるようになっているはず。緩いつながりだからこそ、ずっと続いていくんじゃないかって。だから、こだわり過ぎちゃいけないんです。「みんな、洒落。」ですね。

写真

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

桂枝之進(かつら・えだのしん)

クリエイティブディレクター / 落語家。2001年6月20日生まれ。5歳から落語を聴き始める。2017年1月 中学在学中に六代文枝一門三代目桂枝三郎に入門。2017年12月 天満天神繁昌亭「枝三郎六百席」にて初舞台。関西を拠点に寄席やイベント、メディア等で活動するほか、2020年、落語クリエイティブチーム「Z落語」を立ち上げ、渋谷を拠点にZ世代の視点で落語を再定義、発信するプロジェクトを主宰している。

速水駿(はやみず・しゅん)

アートディレクター / デザイナー。2002年生まれ牡羊座。2017年にライブコマース領域での起業に向けて活動を開始。翌年よりデザイナーとしての活動を開始し、スタートアップ2社でのUI/UXデザイナーを経験。2020年6月の「VRで見る4人展」をきっかけにアートワークの作品の制作も行う。2020年8月より落語家、桂枝之進主宰のZ落語のアートディレクターを務める。現代美術、日本庭園が好き。

大久保空(おおくぼ・そら)

映像ディレクター / フォトグラファー。2000年生まれ。 高校1年から写真を始め、東京工芸大学写真学科に所属。独学で映像を学びながら、渋谷WOMBでのイベントアフタームービー撮影始め、MV、PVなど様々な映像製作。 映像、写真を中心にしたクリエイティブチームを2019年に組み、インバウンド向けのサービスを開始、活動中。

いんちょー

テクニカルディレクター / エンジニア。2000年生まれ。幼少期から想像することが好きでものづくりを続ける。現在は電子工作とプログラミングを主に行い、インターネットと人とものを繋げる作品を制作。大学に通いながらNPO法人副代表理事兼エンジニアとして活動中。

関連リンク

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする

同シリーズの記事:Z世代の視点

1990年代中盤以降に生まれた、新たな価値観を持つ新世代「Z世代」。幼少期からインターネットが身近に存在し、思春期にはスマートフォンもSNSも当たり前に存在する―。こうした環境は、個人が触れられる情報量や人々の関係性、物事の捉え方を大きく変化させてたといわれている。これからの社会の中核を担っていくこの世代独自の価値観を、多様な方面から紐解いていく。