フィードバックを極める!上からではなくフラットに、お互いに学び合うための秘訣
情報過多、正解のない問いと向き合う時代——大人の「学び」に求められるフィードバックのあり方とは。
情報は簡単に検索で入手でき、学習ツールも多様化するなか、ビジネスパーソンは「何を」「どのように」学ぶべきか。2018年、リクルートワークス研究所は、このビジネスパーソンの学びをテーマに「『創造する』大人の学びモデル」を発行。学びの変化を紹介した。
続く2019年3月には、第2弾として「『創造する』大人の学びモデル」Vol.2〜アウトプットからはじまる、学びのサイクル〜」を発表。情報を取り入れるインプットではなく、「アウトプット型の学び」がいまのビジネスパーソンには求められると定義した。
前編では、アウトプット型の学びの重要性を聞いた。続く後編では、アウトプット型の学びの構成要素の中で「フィードバック」にフォーカス。リクルートワークス研究所 主任研究員の辰巳哲子に話を聞く。
フィードバックとアウトプットはセット、「よい問い」が学びを深める
― 今回のレポートには「アウトプット型の学びサイクルを回すときにもっとも怖いのはフィードバックを得られないこと」と書かれています。アウトプット型の学びにおいて、フィードバックはなぜ大事なのでしょうか?
フィードバックとアウトプットはセットだからです。アウトプットがあってもフィードバックがないと学びのサイクルが回らず、学ぶ機会は減少してしまいます。
例えば、ある分野の専門家が、「自分は専門家だからこの分野については一番詳しいはずだ」と周囲の声に耳を傾けないとします。周囲からのフィードバックを受け入れなければ、その人は自分が最初に学んだ頃の理屈だけで考えてしまい、日々の学びが少なくなる。他者からの学びが減れば、相対的に学びは少なくなります。
前編でもお伝えしましたが、我々が向き合う問題は年々複雑になり、正解がひとつとは限らず、聞き手の文脈によって答えの捉え方もさまざまです。それぞれが異なる専門性と視点をもつ現代においては、フィードバックからの学びを得られないのは致命的だと思います。
人から学べる人、学べない人の特徴をレポートではこのようにまとめました。
― 現代の学びは、アウトプットとフィードバックをセットに考えなければいけない、と。
以前、「優秀なキャリアカウンセラーは、考えるためのよい問いを出せる人だ」という話を聞いたことがあります。よい問いが人を育て、よい問いから学ぶことができる。受け手は「これはいろいろと考えさせられるよい問いだな」と受け止め、問いを入り口に再び考える。
私自身、このレポートの説明をする中で「アウトプットの学びって何ですか」「それってどういうことですか」「学びは常にインプットなんじゃないですか」と質問をもらう度に「これじゃ伝わらないんだな」「ここまで詳しく言うと伝わるんだ」といった学びを得られていると感じます。問いそのものがフィードバックだからです。
― フィードバックから学び、改善のサイクルが回るようなイメージでしょうか?
誤解されやすいポイントなのですが、「改善」ではないんです。これはとても大切な違いなのですが、お互いに新しいものを持ち寄り、混ぜ合わせるのがこの"学びモデル"なので、改善ではなく「創造」なんです。なので、レポートも"「創造する」大人の学びモデル"という言葉を使っています。
改善はひとりでもできますが、創造はひとりではできない、という考え方です。アウトプット型の学びサイクルは、ひとりでやるものではない。レポートの最後に「これまでの学び」と「これからの学び」の対比をまとめているのですが、これからの学びは「他者とやる」「コミュニケーションを使う」もの。だからこそ、フィードバックは欠かせないんです。
アドバイスとは別物!フィードバックは「上から下にするものではない」という前提で捉える
― ですが、フィードバックと聞くと落ち度を指摘されているような気持ちになり、なかなかポジティブに向き合うのが難しいような気がします。
まず、「上から下にするものではない」という前提が大切です。フィードバックというとアドバイスや駄目出しのように捉えられがちですが、そうではありません。上下関係の中で捉えようとするから、その誤解が生まれてしまう。教室型の学びが誤解を生んでいるのだと思いますが、現代の大人の学びは、一方的に教えるフォーマットではなく、お互いに学びがある創造なんです。
上下関係ではなく、フラットな関係。ですから、フィードバックを受ける側も別に構える必要はない。言われた通りにしなければいけないわけでもないので「なるほどそういう考え方もあるよね」といったん受け止めてみることが大切です。もし言われたことがピンと来なければ「伝わらなかった、よくわからなかった」とフィードバックし、別の手段を考えればいい。そうすることでフィードバックしたほうにとっても学びになる。学びのサイクルがぐるぐると回っていくんです。
― 上下ではなくフラットなのだ、という考え方は、重要ですね。先ほど出てきた専門家のような、周囲の声に耳を傾けない人にも伝えてあげたいです(笑)。
一度身につけているものがある人ほど、アンラーニングが欠かせません。既存の知識に新しいものを取り入れ、そのフレームがどう変化するかを楽しめることが大切です。
強い成功体験を持つ人にも同じことが言えます。これが正解だと思っていたものを「違うかも」と見直すことは、自分がプロフェッショナルであると思っている分野こそ、とてもしんどいと思います。ですが、「今、固執していないか」と見直しもう一度考えることで、変わることがあるかもしれません。
お互いの強みを混ぜ合わせ、より豊かにするためのフィードバック
― フィードバックを受ける側のことはわかってきました。では、逆にフィードバックする側に立つ場合は何を意識すべきでしょうか。受け取り方と同様、どうしてもダメ出しのようになってしまう気がします。
まず、アドバイスではないということを意識してください。自分より相手の方が詳しい部分があるという前提で、その強みを生かしつつ、どうすればその強みをよりよいものに変えていけるかという姿勢でのフィードバックが必要です。
ただ、フィードバックをする相手のことがよくわからない時には、まず確認をしましょう。例えば、「ここまでの話を要約してみてくれますか?」だったり「ここまでで分からない言葉はありましたか?」と途中で聞き、相手が今どれくらい理解していたり、前提知識を持っていたりするかを理解する。もちろん、わからないことを「わからない」と言える、その場の空気も大切です。
― マイナスポイントを指摘するのではなく、その人のプラスをより伸ばしていくようなイメージでしょうか?
"伸ばす"というより、別のものを入れたことで、その人が元々持っている強みの色を変え、もっと豊かになるようなイメージです。伸ばすだけであれば、いわゆるアドバイスに近くなりますが、その人の強みをより豊かにしていく、創造的にしていくためのフィードバックが大事なんです。
― ですが、「相手をより豊かにするフィードバックをしてくれ」といわれたら、かなり難しそうです。
フィードバックする内容自体は、自分の視線から気付いたことを伝えるだけでかまいません。「どうすれば私とあなたが持つものを融合して、よりよいものにしていけるか」「どうすれば、私とあなたの二人の間にある空間で、新たなものを創れるか」という姿勢が大事なのだと思います。
「ここは駄目だ。あそこは駄目だ」ではなく、どうすればより良くしていけるかを一緒に考える。フィードバックもアウトプットですから、フィードバックをした側も相手の反応を受けて、学びのサイクルを回すことができます。アウトプット型の学びでは、必然的にお互いが学び合う関係になれるんです。
誰かひとりが正解を持つ時代ではないからこそ、アウトプットとフィードバックを通してお互いに学んでいく。「どうすれば面白くなるかな」「この質問どう?」といった、お互いの掛け合わせが大切な時代なんです。相手が正解を持っていないからといって責めてはだめです。
― アウトプットとフィードバックの積み重ねから、双方が学び、ともに創り上げる----といった意識で向き合うということでしょうか。
そうですね。今年の4月、東京大学の入学式で教養学部の学部長がこんな話をされました。「人類のこれまでの学究の成果を自主的に学び、知の技法と引き出しを獲得した上で、既存の学問の枠組みを超えて新しい問題を発掘し、解決していくことが重要です」と。この「既存の学問の枠組みを超えて新しい問題を発掘する」というのは、お互いの強みを混ぜ合わせながらでないと難しいことだと思います。お互いの良さを引き出しやすい対話の場をどう持つか、まずはそこからはじめてみてもいいのかもしれません。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 辰巳 哲子(たつみ・さとこ)
- リクルートワークス研究所 主任研究員
-
リクルート入社後、組織人事のコンサルティング(企業理念の浸透、組織活性化)に携わった後、社会人向けのキャリア研修の開発を行う。その後、高校生・高卒後未就業者のキャリアカウンセリングに携わり、2003年4月より現職。全国の自治体や学校と共同研究、文部科学省や経済産業省にて委員を務める。筑波大学人間総合科学研究科修了。
働くことと学ぶことの接続が専門(キャリア、キャリア教育、社会人学習、リカレント教育)『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』を発行