【後編】コロナ禍で変わる「職」と「住」。対談・HR統括編集長×SUUMO編集長

【後編】コロナ禍で変わる「職」と「住」。対談・HR統括編集長×SUUMO編集長

文:葛原 信太郎 写真:須古 恵(写真は左から藤井、池本)

リクルート HR統括編集長 藤井薫とSUUMO編集長 池本洋一が語る、ニューノーマル時代の「職」と「住」。その先に広がる生き方とは。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの生活を一変させた。「ニューノーマル」という言葉のとおり、世界中の人々がコロナに対応した新しい社会の中で、新しい生活様式を模索している。

リクルートでは、例年おこなっているトレンド予測の中で、2020年の住宅領域のトレンドに「職住融合」を挙げていた。この予測は、東京五輪の開催に向けたテレワークの推進を前提にしたものだったが、コロナ禍により、このトレンドは急速に現実のものとなってきている。

この職住融合時代に、働き方・住まいはどう変わっていくのか。リクルートキャリアHR統括編集長 藤井薫と、リクルート住まいカンパニーSUUMO編集長 池本洋一の対談から、前後編にわたってひもといていく。

選択の前に、自分の軸を見つける必要性

――前編では、住まいも働き方も、選択肢が広がっていくというお話を伺いました。ビジネスパーソンはこの時代をどう乗りこなしていけば良いのでしょうか。

藤井 選択肢が増える分、もちろん選ぶのは難しくなります。なぜここに住むのか、なぜこの会社で働くのか。突き詰めて考えることが、これまで以上に重要になるでしょう。リクルートキャリアでは「働く喜び調査」という調査を毎年実施しているのですが、働くことに喜びを感じている方には私が「3つのC」と呼んでいる共通の特徴があるんです。

まずは「Clear」。自分の持ち味や軸を自覚している。次に「Choice」。自分の持ち味を発揮できている仕事や職場を選択できている。最後は「Communication」。同僚や上司、クライアントと良いコミュニケーションが取れている。この3つのCをどう満たすかと考えると、選択肢を選ぶ「Choice」の前には、選択する上での軸を明確にする「Clear」が必要になります。

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リクルートキャリア HR統括編集長 藤井薫

池本 今はClearにするにはちょうど良いタイミングかもしれませんね。外出や移動が減り、家にいる時間が増えた分、時間的にも余裕が生まれやすくなっている。また、日々状況が変化する中では、自分自身とも向き合わざるをえないですから。

――企業側からすると、社員や求職者がClearになる手助けをしたり、Choiceしてもらいやすくする支援も必要になってきそうです。

藤井 そうですね。働き手が本来持っているかけがえのない持ち味は何なのか?積極的に壁打ち役となり、持ち味の自覚"Clear"を促し、それを発揮できる働き方や成長機会の選択肢"Choice"を多様に提示する。それが、選ばれ続ける企業であるためには外せない要素の一つになってくるでしょう。

個人の時代に起こる「単位革命」

藤井 ビジネスパーソンがClearとChoiceを磨いていけば、自ずと働くことの主体が企業から個人に移行していく。すると、仕事の「単位」も細かくなっていきます。

企業を軸とした「この会社のこの役割が担う仕事」という粒度から、個人がやる「プロジェクト」や「特定の作業」「スキマ時間にパパっとできること」といった単位に変わる。複数の仕事も行き来しやすくなります。所属も関係なくなるため、副業・兼業も今以上に当たり前になっていくでしょう。

こうした「単位革命」は様々な領域で起こり始めています。美容であれば、美容室を選ぶ時代から、自分のヘアスタイルを超えたライフスタイルに寄り添ってくれる美容師を選ぶようになっています。飲食であれば、行きたいレストランを選ぶだけでなく、「夜景が見える席」「ファミリーでも落ち着ける席」など座席や時間帯までも選べる。ゲームもネイルもスキマ時間や自分の都合時間で選びやすくなりました。

これまでよりもずっと「小さな単位」であらゆる選択を、気軽に、自分都合で、お試しできる社会が、着実に近づいているんです。

池本 これは住環境でも同様の変化が起こっていますね。今までは買うか借りるかの二択だったところから、定額でいろんな場所を転々とし、短期に住み替えるサブスクリプション式の住宅が出てきたり、仲間内で共同で別荘を借り、シェアする人も出てきています。

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リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長 池本洋一

藤井 そもそも、「長期休暇で別荘を使う」ではなく、普段は都内のシェアハウスに住んで、週末は鎌倉のシェアハウスに行くといった、曜日単位で暮らしを変えている方もいますよね。住まいの単位が変わると暮らし方の単位も変化していく好例です。

池本 本格的に取り組む前の「お試し」としても活用されていますね。買う、借りる、移動するといった大きな決定の前に、今の日常のなかに小さい単位で加えていける。「お試しで移住する」といった行動も、単位が細かくなるからこそ実現できるものです。

仕事も、街も「個」が起点で変化する時代へ

――「単位革命」が進む中では、個々人はどのような意識で「職」「住」と向き合えばよいでしょうか?

藤井 まずは自分の働き方・キャリアをデザインする"主体"が企業から自分自身に移っているという意識を持つこと。その上で、変化は自ら起こしていく気持ちで向き合う。これまで従業員は、あくまで「従う人」でしたが、これからは「"主"業員」といったイメージで、企業と対等に向き合うことがオススメです。

コロナ禍でも上司から仕事やゴールを提示され動くのではなく、「テイクアウトをやってみましょう」「ECサイトをしかけてみましょう」と、自分たちで仕掛けていく。そうしてピンチを切り抜けようとしている会社も少なくありません。

池本 これは住環境のトレンドでも近しい部分がありますね。コロナ禍で人気が出ているエリアは、住民が主体となってコミュニティをつくっていたり、地域を盛り上げようと活発に活動するエリアでもあります。

いうなれば、自治体主体ではなく、住民の参加型で地域が作られている。今の時代はインターネットで街や住民の雰囲気が垣間見れます。そういったカルチャーを積み上げてきた街は発見されやすくもある。結果、自然と人が集まってきているのでしょう。

――ただ、参加型といっても主体的に動くのが苦手な人もいるのではないでしょうか?

池本 おっしゃるとおり、主体的に動ける人も、実際主体的に街に関わっている人も一部です。ただ、主体的に関わる人がいる街に身を置く「フォロワー的人」も、参加はしているんです。自分で何かを形作ったわけではないけれど、同じ"住民"が作ったものに参加すれば、コミュニケーションや関係性が生まれます。それは、自治体のような大きな主体が作ったものでは決してうまれないものです。だから、参加の仕方はもっとグラデーションがあっていい。

藤井 弱い参加もあってしかるべきですよね。仕事も同様です。変革者と一緒に何か新しいことに取り組んでいるフォロワー的な人も組織には絶対に必要になる。ただ、そのフォロワーに主体性がないかといえば、そんなことはない。むしろ、変革者一人で何か新しいことを生み出すのは無理ですから。

――では、そうした個々人が参加する、企業や社会は今後どう変化していくと思われますか?

池本 まずは、情報の流通が圧倒的に増えていかなければいけないでしょうね。まだまだ個に対して、情報が足りていないように感じます。自分は仕事柄「こんな選択肢があるのに」と日々思っていますが、ふと友だちに話してみると、「そうなんだ!知らなかった」となることも少なくありません。

オンラインで人の背中を押すハードルは圧倒的に下がりました。しかし、まだ動き出せない人が多いのも事実です。この時代だからこそ必要な情報を、届くべき人に届けることはますます重要になる。我々もこれまで以上に頑張らなければいけませんね(笑)。

藤井 企業側にも「単位革命」が求められていくでしょう。会社単位の大味な就社情報では、多様な事情を持つ個人を惹きつけることが年々難しくなっています。事業単位、職場単位、プロジェクト単位の具体的な仕事情報へと、これまで以上に小さな単位でアクセスしやすくしていかなければいけません。コロナ禍で、自分のありたい働き方・生き方に向きあった結果として、より主体的な働き方や貢献機会を求める働き手も増えていくでしょう。勤務時間、場所、業務範囲、プロジェクト期間など仕事の単位も小さくなれば、これまで選択できなかった多様な個人を惹きつける力になります。雇用のあり方も変化します。「百人千色」の個人の持ち味を発揮できる選択肢をどう提供できるか、考え続けなければいけません。

コロナは僕たちに多く苦しみを与えた分、学びも与えてくれました。歴史を振り返れば、ペストがパンデミックを引き起こしたあとにルネサンスが起きています。当時の人々は苦しみから救ってくれると思っていた教会や、人々を支配してきた貴族領主などの権威に失望しました。その代わりに、それまで光が当たることのなかった人たちが才能を発揮して、ルネサンスの時代を引き寄せました。その才能はあくまで個人が発揮してきたものです。ニューノーマルの時代にも、きっと個人が生み出す変化の先に、新しい希望があると信じています。

――ありがとうございました。

池本 対面で話す機会が減っていたので、今日は本当に楽しかったですね!「職住融合」の言葉の通り、職と住は本当に密接で、共通点もたくさんあると改めて気づかされました。

藤井 職と住の話は、まだまだいくらでもできそうですね。このままアフタートークしましょうか(笑)。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

藤井薫(ふじい・かおる)

株式会社リクルートキャリア HR統括編集長
1988年にリクルート入社後、人材事業の企画とメディアプロデュースに従事し、TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長などを歴任する。2007年からリクルート経営コンピタンス研究所に携わり、14年からリクルートワークス研究所Works兼務。2016年4月、リクナビNEXT編集長就任。HR統括編集長、リクルート経営コンピタンス研究所兼務。著書に『働く喜び 未来のかたち』(言視舎)

池本洋一(いけもと・よういち)

株式会社リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長
1972年滋賀県生まれ。1995年に上智大学新聞学科卒業後、株式会社リクルートに入社。住宅情報誌の編集、広告に携わる。住宅情報タウンズ編集長などを経て、2011年より「SUUMO」編集長を務める。リクルート住まい研究所 所長・SUUMOリサーチセンターセンター長を兼任。

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