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イラストレーターNoritakeのシンプルさに学ぶ、徹底的に問い、選び抜く姿勢

ものづくり , アイデア , デザイン , ビジネススキル , メディア , 働き方 , 生産性

文:葛原 信太郎 写真:須古 恵

とてもシンプルな線と面のみで構成された、Noritakeさんのイラスト。情報過多な時代だからこそ、極限まで選び抜かれたシンプルさが人の心に残る。そのシンプルさをつくる哲学を聞く。

シンプルながらも、印象的で、優しさも漂うNoritakeさんのイラスト。多くの人は、どこかで目にしたことがあるのではないだろうか。

NTTドコモや東急電鉄の広告にBRUTUSやTARZANの表紙。最近ではとしまえんの閉園に向けたグッズのデザイン監修など、イラストレーターの枠を超えて、多くの人の目を惹きつけている。

Noritakeさんのイラストの特徴であるシンプルさは、どのようにつくられているのか。そのシンプルさを導く裏にある哲学やノウハウから、ビジネスパーソンへの学びを聞く。

仕事が持続的に循環していく「仕組み」が見えて、独立へ

――はじめにNoritakeさんご自身について教えて下さい。これまで、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。

絵を本格的に描き始めたのは、20代はじめのころです。19歳で上京し2年間、新聞配達をしながらセツ・モードセミナーという学校に通いました。卒業後、貯金を切り崩しながら1年ほど作品作りに集中して励みました。しかし、そのときは絵で自活できる見通しが立つほどの収入を得られませんでしたし、新聞配達で貯めた貯金も無くなっていって。そのあと、出版社でアルバイトをしながら、絵を描き続けていくことになりました。

状況が変わっていったのは、現在は神宮前にある、当時代官山にあった本屋の「ユトレヒト」で働き始めてからです。2005年ですね。1〜2年で仕事を覚えていって、あわせて業務の一環としてイラストを描くようになりました。表現としての絵というより、依頼されてイラストを描くという感じになったのはこのころからです。

――アルバイトの傍らずっとイラストで生きる道を模索されていたんですね。独立されたのはいつ頃だったのでしょうか?

2012年です。独立のきっかけは、ある程度持続可能な仕事の仕組みができたからです。自分でグッズを作って販売することを一つの起点として、クライアントワークも定期的に続いていくようになりました。また、それらを見た人からさまざまな仕事の相談が来て。イラストを媒介にした仕事のサイクルが回るようになって「これなら独立できそうだ」という手応えも得られるようになりました。

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――当時から、今のような雰囲気のイラストだったのでしょうか。

いろいろなスタイルを試してきました。初めは、アクリル絵の具でキャンバスに絵を描いていましたし、色鉛筆、マーカー、クレヨンとかいろいろ使って表現していた時期もありました。映像や写真作品も作ってみたりもしていました。

――今のスタイルが生まれたのはいつごろでしょうか。

2008年に友人と開催した、モノクロドローイングの企画展がきっかけです。見に来た方に絵を買ってもらえたり、企画展に来た人からイラストの発注があったりと、これまでにない反応を得られたんです。

当時は、もっと線が細くて筆ペンや筆で描いたゆらぎのあるドローイングでしたが、年月をかけて徐々に、いまの太くて優しい線で描く表現に変化していきました。

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デビューから現在にいたる仕事をまとめた単著作品集「WORKS」(グラフィック社)の表紙

シンプルの裏にある緻密さ

――Noritakeさんのイラストは、そのシンプルさが、人の目を惹きつけます。様々な要素を切り捨て、シンプルに仕上げているのではないかと思ったのですが、どのようにつくられているのでしょうか。

「切り捨てる」というのは、表現としてしっくりきません。単純に絵を見ると、そう見えるかもしれませんが、それだけでは完成しないんです。

例えば、芸能人の方の似顔絵を描く場合。動画や写真で対象者の顔、表情をよく観察して、まずは写実的な絵を描きます。そのあと、印象的な部分を残して、それ以外をデフォルメしていく。この作業を緻密におこなっていきます。

顔のライン一つとっても、イラストの仕上がりでは一定の均一なカーブにしていますが、本当の顔はそうではありません。当然ですが、顎のラインなんかは微妙な角度で作られていますから。印象としての、その人っぽさを探していくというイメージです。

――シンプルにしていく過程は、シンプルではない。むしろとても複雑なんですね。

そうですね。時間の許す限り、細かくやっています。観察をちゃんとしないと、描けない線になっていると思います。

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――作業の中で、もっとも時間をかけているのはどの行程でしょうか。

時間がかかるのは仕上げです。まずは80%くらいまで描きあげます。おそらく、この時点で他の人が見たら完成と思えるくらいには描きあがっていると思います。そこから時間をかけます。細かく絵を見ながら「間違っている」と感じる部分を直していきます。

――どのように、残り20%を完成させるのでしょうか。

とにかく観察するしかありません。80%の絵を壁に貼って、ずっと見ているんです。ちょっと時間をおいたり、絵への関心が薄れてきたくらいの時に見ると、間違いがわかってきたりします。

そのために、今は余裕のあるスケジュールで制作するようにしています。昔はタイトな締め切りの仕事も受けていましたが、そうすると後から見直して「こうすればよかった」と思ってしまうこともあって。その解決策として、今は時間をかけて向き合っているんです。

とはいえ、「正解」は変わっていくものだと思っています。例えば、僕のイラストはここ数年で変わってないと思われるかもしれませんが、実はけっこう変わっている。わかりやすい部分だと、人のイラストでも前まであった線が入らなくなったり、鼻の線が逆向きになったりもします。そのときには「正しい」と思っても、あとになってみたら正しいとは思えないことだってあります。「自分のスタイルじゃないから」、「自分のルールとはズレるから」、と選択肢として捨てていたことを選択肢として戻す、といったことは最近取り入れています。

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学校法人今村学園が運営する幼保連携型認定こども園「いまむらこどもえん」のロゴマーク(撮影:成田舞)

誰に対しても、ありのままの自分でいることを大切に

――Noritakeさんのイラストにおいて大事なのは最後の工程なのでしょうか。

いえ、時間がかかるのは最後ですが、大事な工程は描く前にもあります。例えばクライアントワークの場合、描く段階で迷いが生じないよう、納得いくまでイラストのイメージなどについて相手の方と事前に話をつめておきます。

絵を描きはじめてからは、絵以外のことは考えないで済むように整理してのぞみます。描きながらほかのことを考えると、描くべきものがブレてきますから。再度、相手と話すことがあるとすれば、描く前に決めたことよりも、さらにいいアイデアを描いている最中に思いついた時くらいですね。

もうひとつ、関わる前に大事にしているのは、その仕事に関わっている時間について、です。この仕事に自分は関わっていいのか。この仕事をやる時間があるなら他のことをやっていたほうがいいのではないか、もし明日死んでも今やりたい仕事か、とか。一歩下がった視点から、自分がその仕事に向き合うべきかは、確認するようにしています。単純に、楽しいかどうかっていう言い方もできますけど。

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――自分自身にきちんと問い、迷いを取り除くことは、シンプルである上で大切な要素のひとつかも知れませんね。クライアントワークではなく、自分の描きたいもの描くときも同じような工程なのでしょうか。

基本的にクライアントワークで絵を描いているので「自分の描きたいもの」を描くときは今はないですね。クライアントワークの場合だと、仕事が大きくても小さくても、絵を描く工程もコミュニケーションもなるべく変えないようにしています。

――それはなぜでしょうか?

自分が等身大でいることが大切だと思っているからですかね。上京したころ、公募展でのプレゼンでかなり"盛った" 説明をしてしまったことがありました。あたかも自分が巨匠かのような表現で、いかにこの絵が奥深く、質が高いかをプレゼンしたんです。当時は、着る服も面白い言葉がデザインされていたりするような、奇をてらったようなものも着ていました。ただ、結果は散々。数年後に、その時のプレゼン資料を見返してみたら、ひどいものでした...。

この経験を通して、取り繕ったり、大げさにすることに意味はないとわかったんです。自分を大きく見せるようなコミュニケーションは、少なくとも自分には合いませんでした。今は、相手が誰であれ普通にしている、という感じかな。それをみんなができたら理想的なのではないでしょうか。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

Noritake(のりたけ)

イラストレーター
モノクロドローイングを軸に広告、書籍、雑誌、ファッション、壁画など国内外で活動。デザインやディレクション、作家活動もおこない、その活動は多岐にわたる。イラストをもちいたノートなどのプロダクト制作も精力的におこなう。著書に「WORKS」(グラフィック社)、絵本「へいわとせんそう(谷川俊太郎・文、Noritake・絵)」(ブロンズ新社)などがある。

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