
児童養護施設「社会福祉法人 フランシスコの町」の大野賢寿さん
リクルートでは、就職活動をしたくてもなかなか動き出せない、結果が出ないという若者に向けて、就職活動に前向きに取り組むきっかけとしての就労支援プログラム『WORK FIT』を提供しています。2011年に大学生を対象として始まり、翌年には若者の支援機関「地域若者サポートステーション」向けにもプログラムを開発。その後、少年院、刑務所、保護観察所などにも対象を拡大してきました。
2017年に始まった児童養護施設における取り組みでは、NPO法人フェアスタートサポートとの協働で、社会的養護のもとで暮らす子どもたち向けに、さまざまなゲストからその方の仕事に関する話を聞くキャリア教育プログラムを提供。その後、2019年には資生堂子ども財団との協働がスタートし、中高生の自己決定を支援する取り組みとして「未来発見ワークショップ」を行っています。進路選択に際して、自分の強みや将来の可能性から進路選択ができるよう、自分の可能性を広げる「可能性発見セミナー」も開発、提供してきました。
2025年からは、児童養護施設の中でもプログラムを実施いただけるように、施設職員向けの導入研修を実施。実際に『WORK FIT』を導入した施設の職員・子どもたちは、プログラムを通して何を感じたのでしょうか。群馬県の児童養護施設「社会福祉法人 フランシスコの町」で子どもたちの退所後の自立支援に取り組む専門職員、大野賢寿さんにお話を伺いました。
自分の進路選択に納得できているかどうかが、自立後に踏ん張れるかを左右する
― 大野さんが職員を務める施設「フランシスコの町」について教えてください。
フランシスコの町は、大正13年(1924年)に創立された、100年超の歴史を持つ児童養護施設です。何らかの事情で家族と一緒に暮らせない子どもたちが生活しており、在籍しているのは2歳から18歳までの約40名。毎年1~2名が高校卒業とともに退所しています。
― 退所後の進路はどのような傾向にありますか。
過去5年で退所した10名のうち、就職が6名、専門学校への進学が1名、将来的な障がい者雇用を視野に特別支援校に進んだ子が3名です。
― 文部科学省「学校基本調査」によれば、現在、高校卒業者の高等教育機関進学率は8割を超えています。そうした社会状況を踏まえると、就職の割合が非常に高いですね。これはやはり、退所後に自活をしていかなければならないことが前提にあるのでしょうか。
そうですね。金銭的な問題は大きいと感じます。加えて、職員の私たちから子どもたちへの働きかけが足りていませんでした。これまでは日々の生活支援で手一杯だったのが実情で、進路選択が差し迫った中学3年生や高校3年生のタイミングになってようやく働きかけていたくらい。進路指導やキャリア教育と呼べるような支援には至らず、本人が将来についてじっくり考える機会を十分に提供できていなかったと思います。その結果、希望の進路に進むチャンスを逃してしまった子や、深く考える時間を持てないまま進路を決めてしまった子も少なくありません。
― 厚生労働省の資料によると、児童養護施設出身の若者は就職後の早期離職や進学後の中退の割合が一般の若者と比べて高い傾向にあることが報告されています。 「フランシスコの町」ではいかがでしょうか。
先ほどお話しした就職者6名のうち3名は既に初職を離職していますので、離職率は50%と高い水準。私は退所後のアフターケアで定期的に家庭訪問をしているのですが、継続している人たちも、生活面や仕事・学業の悩みなど、大なり小なり困難はあるようです。そうした壁にぶつかったときに踏ん張れるかどうかは、やはり自分の進路への納得度が大きく影響している印象ですね。例えば、人間関係でつまずいたり、仕事内容が思っていたより大変だったりしても、進路に納得している子は「自分で決めた道だから」と安易にあきらめずに粘り強く努力や試行錯誤ができる子が多い。そういう意味で、子どもたちが退所する前の早い段階からの自立支援が必要だと痛感しています。

困難に直面してきた子たちだからこそ、未来をポジティブに考える機会にしてほしい
― ここからは『WORK FIT』の導入について教えてください。大野さんは2025年に群馬県内で実施した職員向けの研修に参加しています。その後、『WORK FIT』を施設で導入されたのは何がポイントだったのですか。
グループワークで他の参加者と対話をしつつ、楽しみながら自分の強みや将来の可能性について考えられそうなプログラムだった点ですね。また、私が一番いいなと思ったのが、将来のことから逆算して考えるアプローチであること。児童養護施設で暮らす子どもたちは、過去につらい経験をしている場合が多いですし、それゆえに問題行動を起こしたり、自分の特性に悩んだりと、複合的な困難を抱えていることがあります。つらい記憶と結びつきやすい“過去”や“今”ではなく、明るい“未来”をポジティブにイメージしながら、取り組めそうなプログラムだと思いました。
あとは、職員である私たちの事情もあります。児童養護施設では自立支援の専門職員を配置するようになってからまだ日が浅く、私も昨年担当になったばかり。自分自身の知見を増やす意味でも、積極的に新しい取り組みにトライしてみようと思いました。
― 「フランシスコの町」では、どんな子どもたちを対象にどのようにプログラムを活用したのですか。
ふたつのグループで実施しました。ひとつは、中学・高校の最終学年に上がる前の子どもたち(中学1年生2名、2年生1名、高校1年生1名の計4名)。進路選択を迫られる時期よりも前の早い段階から、自分の可能性を発見したり、世の中の職業について考えたりしてみようというアプローチです。もうひとつのグループは、2026年の3月にキッザニアでの職業体験に招待された小中学生たち。事前学習として実施し、職業体験のヒントにしてもらうことが狙いでした。また、私がこだわったのは、それぞれの子どもの日々の生活を支援する担当職員も一緒に参加すること。プログラムを一過性のものにしないためには、子どもたちがワークを通して気づいたことや考えたことを一番身近な大人が把握し、日々の対話のなかで生かしていくべきだと考えました。
― プログラムを受講した子どもたちはどのような様子でしたか。
タイプ診断でかなり盛り上がっていました。というのも、ひとりで黙々と設問に答えてタイプを診断するだけでなく、職員や他の子どもたちからも意見をもらいながら自分の可能性を発見していく仕立てなので、自己認識とは違った結果が出ることもあったんです。例えばある子はコミュニケーションが苦手なタイプという自己認識だったのですが、それは人の気持ちに敏感で人間関係を大切にするからで、本質的にはコミュニケーションに欠かせない素養を持っていると気づけたんですよ。
また、別の子は動物が好きで獣医や看護師になりたいと言っていたのですが、タイプ診断では「芸術家タイプ」という結果。獣医・看護師の仕事とは少しズレがあったようです。ただ、その芸術家タイプが興味を持ちやすい仕事のなかに含まれていた「造園業」に興味を持った様子。生き物を扱う仕事として植物にも興味を広げ、多様な選択肢から自分の可能性を考えられるきっかけになったのではないでしょうか。

奨学金などの支援にもつなげるためにも、早期に自分の目指す道を見つけることが重要
― 受講後、子どもたちにはどのような変化の兆しが見られるでしょうか。
急激な変化があるわけではないのですが、ワークが終わった後も自主的に職業について調べる子がいて、私にも進路について相談してくれるようになりました。『WORK FIT』では、厚生労働省が提供する職業情報提供サイト「job tag」など、自分で調べたり考えたりするためのツールも紹介されているので、継続的にキャリアを考えることにつながったようです。
また、小中学生は『WORK FIT』で発見した自分の可能性をヒントに、その後に実施した職業体験の幅が広がった様子。何種類かの職業を体験できるチャンスがあるなかで、漠然と体験するのではなく自分の個性や可能性を手がかりにして主体的に仕事を選べたことは、職業体験をより有意義にできた印象があります。
― 児童養護施設における自立支援をより良いものにしていくには、どのような取り組みがもっと必要だとお考えですか。
なるべく早い段階から働きかけていくことです。というのも、近年は児童養護施設出身者向けの無利子の奨学金制度など支援が徐々に増えてきたおかげで、高校卒業後の選択肢もかつてより広がっているのですが、それらの支援を受けるには、進路選択の直前に動いても間に合わないことが多い。裏を返せば、早めに自分のやりたいことを見つけた子ほど、支援制度にアクセスできる可能性が高まり、将来の夢をあきらめずに納得のいく進路へ進みやすくなります。本当は進学したいのにあきらめざるを得なかった昔に比べれば、世の中は変わってきている。だからこそ、中学生1~2年生や場合によっては小学校高学年くらいから長期的・継続的に自立支援を進め、子どもたちが自発的に将来を考えたいと思えるようにしていきたいですね。
― 今、社会は目まぐるしく変化していますが、児童養護施設の子どもたちにも変化を感じますか。
私は1999年に当施設に入職し、今年で27年目になります。たしかに、子どもたちを取り巻く環境は大きく変わりました。けれど、今も昔も子どもたちの本質は変わらないと思います。家庭環境など自分の複雑な問題に向き合いながら大人になっていかねばならない。それは時代を超えて共通しています。彼らが本当に自分のやりたい道に進むには乗り越えなければならないハードルが多いのです。
― では、子どもたちがそれぞれの困難に向き合いながらも自立した大人に成長していくには、どのような支援が理想でしょうか。
将来を成り行きに身を任せるのではなく、自分の意志でしっかりと選び取る力を身につけるような支援を行いたいです。児童養護施設の子どもたちは、退所後も仕事や勉強だけでなく、さまざまな問題に向き合わざるを得ない人が多い。困難に直面したときに、あきらめずに問題と向き合い、自分で考えて結論を出したかどうかが、人生の納得度にも影響すると思います。だからこそ、私たち自立支援担当は安易に答えを提示するのではなく、子どもたち一人ひとりがしっかり考えて結論を出せるように、そっと横で見守るような伴走をしていきたいです。
また、自立=孤立とならないよう、適切に周囲を頼れることも真の自立には必要。問題をひとりで抱えがちな子が多いからこそ、困ったときに助けを求められる、信頼できる大人を身近に増やすことも自立支援の一歩だと思っていますし、そのような成功体験を『WORK FIT』のようなプログラムを通して子どもたちが実感できたらより良いですね。

※内容・プロフィールは取材当時のものです