高校生のためのアントレプレナーシップ・プログラム『高校生Ring』。2022年度参加校に聞く、高校生が新規ビジネス考案に挑んで得たもの

リクルートの新規事業提案制度「Ring」で培われたノウハウを活かし、現役高校生がアントレプレナーシップを育む機会を提供するために誕生した教育プログラム『高校生Ring』 。2022年度は、全国23校の高校1~3年生、6,186名が参加し、自ら問いを立て、課題解決のためのビジネスアイデアを考えることに挑戦しました。普段の学校の授業とは異なる学びの機会を、高校生および先生方はどう受け止めているのでしょうか。今回は、2022年度参加校の一つである昌平高等学校(埼玉県)を訪問し、生徒・先生それぞれにインタビューした様子をお届けします。

<生徒の声>「あったら良いな」の好奇心に従ってビジネスを考えるプロセスが楽しい

― まずは二人が考えたアイデアを教えてください。

Aさん: 家族に代わって、高齢者の方とオンラインで定期的にコミュニケーションを取るサービスを考えました。これは、僕の亡くなった祖父が生前に認知症になって介護生活になった経験から思いついたもの。祖父の症状は家族が気づいた時にはかなり進行していて、もっと十分にコミュニケーションを取っていたら早く気づいてあげられたかもしれない、祖父も孤独を感じていたかもしれないという心残りがあったんです。このサービスなら、楽しく話をしながら健康状態の確認や認知症の早期発見にもつながるかもしれない。高齢者の方にも家族にも価値があると考えたんです。

Bさん: 僕が考えたのは、オンラインを活用して少ない部数でも本が出版できるサービスです。今はインターネットで何でも情報が手に入りますが、僕は紙の雑誌や本も好きなので、この文化をなくしたくないと思いサービスを考えました。爆発的にヒットする本ではなくても、それを求めている人は確実にいるニッチな領域ってあると思うんです。そういう本を出版したい人とその本が欲しい人をオンライン上でマッチングして、必要な部数だけ出版するというアイデアでした。

― 『高校生Ring』は、半径5mの日常からアイデアの種を見つけることに挑戦するプログラムですが、まさしく二人とも自分の身近な経験がヒントになっていますね。

Aさん: そうですね。僕は漠然と起業に憧れがあって、前から温めていたアイデアがあったんです。でも、いざ『高校生Ring』のワークシートに書いてみるとしっくりこなくて…。そんなときにちょうどお盆で祖父のことを思い出したのがきっかけになりました。

― このプログラムは、普段の授業や宿題と比べてどこに違いを感じましたか。

Bさん: 普段の勉強とは違い、『高校生Ring』は解くべき課題を設定するところから自分で決めて、どうやって解決するかを自由な発想で考えていくのが面白いです。はっきりとした答えがないテーマを考え抜くのは、クリエイティブな思考が試されている気がしたし、普段とは頭の使い方が違って刺激的でした。

― 逆に、難しかった点や大変だった点はありますか。

Aさん: そのサービスのメリット/デメリットを洗い出して考えるところです。デメリットをつぶしてより良いサービスにしようと検討するものの、一つ懸念点を解消すれば新たな懸念が見えてくるんです。どこまで考えれば十分といえるのか、正解がないからこそ悩みました。

― Aさんは2次審査を通過し、リクルート社員からアドバイスをもらってブラッシュアップする経験をしています。実際のサービスを企画・運営している社会人と接する機会はどんな学びになりましたか。

Aさん: 本物のビジネスを動かしている人は、僕が考えている以上にさまざまな観点をしっかりと検討しているんだなと思いました。例えば、サービスの立ち上げから事業として拡大させるまでの戦略を問われたこと。いかにサービスとして優れていても、どう育てていくかという中長期の視点がないと成立しないことに気づきました。

― 最後に、『高校生Ring』を通して学んだこと、気づいたことを教えてください。

Aさん: 実際の社会では「修正力」が大事なんだなと思いました。自分が出したプランが一発で通ることはまれで、状況が変わったりさまざまな人の意見が入ったりすることは珍しくない。でも、そこであきらめるのではなく、軌道修正をしながら前進していくこと。それが特に起業のようなゼロから価値をつくる仕事には必要だと感じました。

Bさん: 社会って広いんだなと思いました。普段の授業や学校生活では知らないこと、学べないことがこの社会にはまだまだいっぱいある。こういう学びの機会があることを知れたことが嬉しかったです。だからこそ、早く社会に飛び出してみたいし、できれば海外にも行ってみたい。そうやってたくさんのことを学んで自分なりに社会に還元できる方法を探していきたい想いが強くなりました。

<先生の声>高校生のうちに、実社会の問題を考えるきっかけにしてほしい

― 『高校生Ring』は、リクルートの新規事業提案制度として社内で長年運用されている「Ring」が基になっています。実際の新規事業提案とほぼ同じスキームを生徒が経験することはどうお感じですか。

先生: 企業の目線で生徒たちのアイデアを審査してもらえるのは、非常に貴重な機会です。夢物語ではなく現実的に可能なのか、ビジネスとして成立するのかを問われるわけですから。これを学校内で教師が審査をしても、ビジネスモデルなどを適切に評価してあげることはなかなか厳しい。どうやって収益を確保するのか、本当にニーズはあるのか、本当に解決すべき課題はそれで良いのか、など実際にビジネスの最前線にいる皆さんの視点を学べると思います。

― もっとこうなったら良い、こうしたいと思う点はありますか。

先生: ビジネスアイデアに取り組む前にもう少ししっかりと準備をさせてあげたかったです。今回は『高校生Ring』単体を宿題として課したため、やや唐突だった生徒もいた印象。例えば高校1年時から探究学習の授業などを通じてある程度思考のフレームを学んでおくなど、長期的な学習計画の中に組み込むことができれば、より有意義な学びになるかもしれません。その一方で、アントレプレナーシップは自律や主体性が大事ですから、どこまで教師が伴走や支援をすべきか、悩ましさもあります。

― 『高校生Ring』に取り組む様子は、普段の生徒を見ている先生の目にはどう映りましたか。

先生: 他の教科に得意不得意・好き嫌いがあるように、生徒によって温度差があったのは仕方のないことかもしれません。その一方で、普段の成績や学校生活の様子とは違った一面が垣間見える生徒もいましたね。例えば、普段は自分のことに手いっぱいで周りを見る余裕がなかったある生徒が、自分の悩みを起点に社会へと視点を広げ、困っている人の役に立ちたいとサービスプランを出してきたことに、生徒の成長を感じました。また、普段の授業ではそこまで積極的ではない生徒が熱心にこのプログラムに取り組むなど、生徒それぞれに秘められたポテンシャルを理解できたのは、教師としても非常に意義深いです。

― 最後に、生徒がこのプログラムを体験する価値について、先生のご意見を教えてください。

先生: まず、そもそも起業・経営やビジネスへの関心が高い生徒にとっては、彼らの興味に直結した良い機会だと思いました。ただ、私としては全ての生徒が進路を考えるきっかけとしても『高校生Ring』に取り組んでほしいと考えています。生徒の身近なことからでも良いので、今の社会にはどのような課題が潜んでいて、どう解決すれば良いのかを考えてみること。それは私たちが生きている現実の社会に目を向けることに他ならないからです。社会を知ることで、自分がやりたいことや学びたいことに気づき、一人ひとりが心から目指したい進路に出会えるヒントにしてほしいです。

『高校生Ring』概要


『高校生Ring』は、アントレプレナーシップを身に付けるための学びを届ける教育プログラムです。リクルートではアントレプレナーシップを「自ら問いを立て行動し、変化を起こす力」と定義します。『高校生Ring』は、いきなり社会課題を与えたり、企業からのテーマを考えるのではなく、半径5m以内の問いの解決にチャレンジすることを大切にし、当事者意識高く高校生に取り組んでいただいています。先の見通しが立てにくい時代に、「半径5m」にある自分の視点からビジネスを考えるプログラムを通じて、参加いただく高校生の皆さんが自分への理解を深め、興味があること、やりたいことを見つけるきっかけとなることを目指します。

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