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【教えて!先輩パパ】妻とは対話を、子どもとは二人だけの体験を。鈴木おさむさんが語る家事育児へのコミットする方法

共働き家事・育児

2019年11月21日

【教えて!先輩パパ】妻とは対話を、子どもとは二人だけの体験を。鈴木おさむさんが語る家事育児へのコミットする方法

家事や育児に参加したいと思っていても、苦手意識をもってしまいがちなパパが多いようです。自分なりにやってみても、ママを怒らせたり、難しそうに見える家事には尻込みしてしまったり......。特に「初めての家事育児へいかにコミットするか」は、多くのパパたちにとって難題のようです。いったい、世の先輩パパたちはどうやってこの課題を乗り越えてきたのでしょうか?

そこで今回は、放送作家の鈴木おさむさんにインタビュー。売れっ子放送作家として昼夜を問わず多忙に過ごす鈴木さんは、どうやって家族と向き合っているのでしょうか? 育休中の気づきや家事、育児参加のコツ、妻との対話......家族でごきげんに過ごすヒントを教えていただきました。

●聞いた人:鈴木おさむさん

放送作家。1972年生まれ。バラエティーを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆等さまざまなジャンルで活躍している。森三中・大島美幸さんと2002年に結婚。長男の笑福(えふ)くんが誕生した2015年からは1年間の"父勉"(育休)を取得した。著書に『ママになれないパパ』(マガジンハウス)など。



息子の指を車のドアに.....不注意と油断が招いた大きな後悔

―― 2015年に一人息子の笑福(えふ)くんを授かった際に1年間の育休を取得したこともあり、よき夫、よきパパのイメージが強い鈴木さん。何か後悔したことや失敗の経験はあるのでしょうか?

つい先日、今までになく反省した事件がありました。子どもからは目を離してはいけない、と改めて学んだ出来事です。

もともと僕はとてもせっかちで、例えば家族で一緒にいても、僕だけスタスタと一人で先を歩いてしまうんです。1年ぐらい前には、ついに息子にも「とうと(お父さん)、歩くの速いね」と言われてしまって。

その言葉を聞いて、申し訳ないなと思う気持ちはありましたし、妻に一度「(息子に)言われてなんとも思わないの?」と、ひどく怒られたこともあった。でも性分だからやっぱり治らないものなんです。

―― せっかちが原因で、何が起きたのでしょう。

花火大会を見るために知人の家に行ったんです。その帰り際、うちのスタッフが運転する車の後部座席に妻と息子たちが、僕は助手席に乗り込みました。

いつもの癖でせかせか「さあ、帰ろう!」と助手席のドアをバーンと閉めた瞬間、ふっと嫌な空気が流れて、「うわあああん!」と息子が叫んだ。とっさにドアを開けると、息子の左手の中指から血が流れていて......。息子がドアのへりに手をかけていたのに気づかず、指を挟んでしまったんです。

鈴木おさむさん

子どもはパニックになり、妻は号泣。僕は血の気が引いていくのを感じました。すぐ病院に行き、奇跡的に骨折していませんでしたが、本当に心から反省しました。妻にも「せっかちだからこういうことが起きるんだよ!」とすごく怒られました。

―― 大きな事故にならず、よかったです。どんな気づきがありましたか?

息子も4歳になって、一人で歩けるようになってきたし、コミュニケーションも取れる、だから僕がちょっと目を離しても大丈夫だろうと油断していたな、と。

僕のせっかちさは、もしかしたら治らないかもしれない。でも、目を離したほんの何分、何秒のあいだに子どもの事故は起きる。自分がせっかちだからこそ、子どもが大きくなっても、妻や周囲の大人が見てくれていると思っても、自分の場合は人一倍気を付けなければ子どもは守れないのだと学びました。

いかに効率的に、いいものにするか。"仕事の脳"が家事・育児に役立った

―― 初めての産休、育休に入ると、世のご夫婦は子どもとの生活で"ママ、パパとしての初めての仕事"に奮闘することになります。放送作家の仕事で得たスキルが、家事、育児に生かされることはありましたか?

放送作家は、短期間で面白い企画を立てたり、他のスタッフが撮ったVTRをどう編集したらよりよくなるかを考えたり、処理能力が求められる職業。いかに効率的に、いかに面白く、世の中に伝わりやすいものを作るかが重要になります。

こうした処理能力は、家事、育児でも役立ちました。ミルクを作るときは、どうしたら早く粉ミルクを溶かせるか、早く冷やせるか。おむつ替えをするときは、どうしたらおしりふきシート一枚で一筆書きのように拭き取れるか......といった具合に。

―― 仕事のように、育児でも段取りを見直して効率化を図ってみる、と。育児での思考の訓練が、仕事でプラスに働くこともありそうですね。では、家事ではどうでしょう。

子どもができてから、一番変化したのは食事面。夫婦ともに食事は外食がほとんどだったのですが、三食家で食べるようになって、僕は"父勉(育休)"の1年間、料理当番を主な仕事にしようと決めたんです。そこで、仕事にいい影響を与えた新たな発見もいくつもありました。

そもそも毎日の食事を作るのって、とてつもなく大変なことじゃないですか。たまに気が向いてキッチンに立っていたときとは、まったく違う。食材を余らせず、体に優しい和食中心のメニューを、バリエーション豊かに作るために、毎日クックパッドとにらめっこしていました。

笑福くんが生後2か月の頃、鈴木さんが作ったゴーヤーチャンプルーとサラダ(オフィシャルブログより)。この日のブログには、すでに「クックパッドよ、毎日ありがとう!」の文字が。

そこでわかったのが、情報番組の料理コーナーのありがたさ。全国の主婦の皆様が毎日の献立に苦労しているからこそ、料理コーナーが数多くあるのだと、放送作家を20年以上やっていて初めて気づきました。

スーパーに足繁く通うようになったり、野菜の宅配サービスを使い始めたりしたことで、その時期の旬の食材が何なのか、体にどういう作用があるのかという勉強にもなりました。すると、健康番組の内容が頭に入ってくるように。

また、食材と調味料の掛け合わせでいかにおいしい料理を作るかを考えるようになるので、芸人さんやテレビ制作の人から聞いていた「大喜利と料理は一緒」という言葉も体感しました。どちらも連想ゲームなんですよね。

鈴木おさむさん

―― 反対に、仕事のスキルでは太刀打ちできなかったことはありましたか?

育児は人間相手なので、太刀打ちできないことはたくさんありますよ!例えば寝かしつけなど自分の思い通りに進められないことが多々あります。

ただ、そうした経験は、世の中と共有できる"あるある"を増やしてくれました。わかりやすいのが『はじめてのおつかい』(日本テレビ系)。観るときの感情移入の仕方が、子どもを授かった前と後では100倍違う。子どもの成長を見守ることの感動が増して、番組の見どころや面白さが分かるようになりました。

また、育児をしながら家事や介護、仕事などをすることの大変さを知り、見える世界の幅が広がりました。

以前は仕事先の人が「毎日保育園に送って行ってるんだよね」と話していても、そのすごさに気づけなかった。でも、実際に毎日送っていくのって大変じゃないですか。子どもの気分が乗らない日もあれば、雨で普段より時間や手間が増えることもあるし。 自分が子育てを経験してから、仕事や日常生活で接する人すべてに人生があり、みんな頑張っているんだと感じるようになりました。

妻とは対話を。子どもとは二人だけの体験を。家族にコミットするコツ

―― 家事・育児と仕事を両立しようとすると、心身の余裕がなくなり、夫婦でのもめ事が起りがちです。鈴木家では、夫婦間の衝突をどのように乗り越えてきたのでしょうか。

うちは、妻が定期的に爆発してくれるので助かっています。それをきっかけに話し合いが始まるので、問題を都度、軌道修正できる。家事、育児だけでなく、互いの仕事の仕方、自分の仕事に対する相手の向き合い方、二人のコミュニケーションなど、さまざまなことを話し合ってきました。

有意義な会議をする会社は、優秀な仕事をしますよね。夫婦も同じじゃないですか?「怒られたくないから」と対話を避けて、浮上した問題をなんとなく流していると、気づいたときには経営困難に陥ってしまうかもしれない。

鈴木おさむさん

―― 妻に爆発されたら、夫はどう対応すればいいでしょう?

まず、意識的に「聞かせてほしい」「話し合おう」という姿勢を見せること。おそらく妻の爆発は、僕がなだめたり、やり過ごすことでも沈静化はすると思います。ですが、すべきは爆発をやり過ごすことではなく、問題の軌道修正。まず対話をしないと、問題を解決できません。

次に、「僕の家事育児に対して、君が何をどんな風に求めているのか、マニュアルがないと何をしていいかわからない」としっかり伝えること。男性って、マニュアルをほしがりがちじゃないですか。ならば、そう相手に言えばいいんですよ。

マニュアルを決める話し合いでは、具体的なルールを作るとわかりやすい。まず「○○は僕がやる」「○○は君がやってほしい」など、分担を決めます。そのうえで、そのスキルを妻が求めるレベルまで習得していくためには、かなり細かくステップを決めた方がいいと思います。料理を担当することになったら、「まずはチャーハンだけ作らせてほしい」「まずは料理するのを見ていてほしい」など伝えて、少しずつステップアップしていく。

もし妻が「料理は私が責任もってやる」というなら、妻が嫌なことはしない方がいい。一方で、妻が「掃除はやって」と言うなら、夫は掃除だけを一から覚えればいいわけで。

―― 育児に参加する場合はどうでしょうか。「母親にはかなわない」と腰が引けてしまう父親は多いようです。

「母親にかなわない」と思うのは当たり前。実際に、かなわないことが多いんだから。ただ、父親にもできることはある。

例えば、公園で一緒に全力疾走したり、肩車をしたり。そういった体を使う遊びは、男親だからこそ提供できる喜びじゃないでしょうか。

妻に対しても、自分にしかできないサポートがあると感じます。妻が作る料理は子どもに向けたメニュー中心になるので、大人向けの味はなかなか食卓に並ばない。だから僕がたまにキッチンに立つときは、いつもは作らない煮物を作ろうとか、妻を喜ばせる献立作りをすごく意識します。

―― 確かに、日々の自身のケアこそ、母親がもっともできないことかもしれません。ところで鈴木さんは、現在、息子さんと二人きりで過ごす時間はあるのでしょうか。

育休を取っていた1歳までのように頻繁にという訳にはいきませんが、時間は作るようにしています。息子が2歳半ぐらいからは、二人きりで映画館に行く習慣ができたんですよ。

体を使って遊ぶような単発の喜びもいいけれど、「時間をかけて、子どもにいい影響を与えたい」と考えたとき、僕にできるのは映画館で映画を観ることだと思って。うちの妻は映画も映画館もあまり行かないので、二人だけの共有体験としてもいいな、と。

最初に観たのは、吹き替え版の『ジュラシック・ワールド』。息子が幼かったので勝負でしたが、恐竜が好きだし、大好きなポップコーンもあるしで、僕に抱っこされながら2時間ちょっと、ずっと観ていられたんですよね。それ以来、僕と映画に行くのが面白いと思ってくれたみたいで。

『仮面ライダー』シリーズ、『スパイダーマン』シリーズ、『アベンジャーズ』シリーズ、『バンブルビー』......。もう10本以上、映画館で観てるんじゃないかな。

息子が映画に出てきた好きなキャラクターの真似をすると、「僕ら二人だけが共有しているものがある」と僕もうれしくなる。今後、息子の成長にどう影響するのかも楽しみです。

―― 父親と子どもだけの共通の話題があるというのは、すてきですね。真似てみたい父親たちにアドバイスを!

僕が子どもと二人きりで出かけられるようになったのは、0歳児時代「妻と僕」「僕と息子」の信頼関係を築いたからです。子どもとの距離を感じている方は、まずは二人きりで過ごす時間を少しずつ増やして、それから共通の趣味を作る......とステップアップしていった方がいいかもしれませんね。

僕と息子が二人きりになることは、初めは妻も僕も不安でしたし、うまくいかないこともあった。ですがそれでも、ずっと抱っこでくっついていると、子どもも父親の体に慣れていくんですね。母親の胸がお布団だとすると、僕の胸もソファーぐらいにはなるんだなと。そうなると、最初は心配していた妻も、「任せて大丈夫だ」と思ってくれるようになったようです。

男の人って、達成感のために仕事をがんばるんですよ。僕の家事や育児へのモチベーションは、それに似ている気がします。

僕が家族の役に立ちたいと思うのは、家族に自分の存在価値を認めてほしいから。息子にもそうですが、妻にも「あなたが父親で良かったな」と言ってもらえるようになりたい。せっかく出会えた家族だからこそ、互いに認め合い、価値を感じ合える関係を築いていきたいものですよね。

鈴木おさむさん

鈴木おさむ

放送作家。1972年生まれ。千葉県出身。バラエティーを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆等さまざまなジャンルで活躍。 2002年10月には、交際期間0日で森三中 大島美幸と結婚。『「いい夫婦の日」パートナー・オブ・ザ・イヤー 2009』受賞。 2015年には「父勉」として育児のために1年間休業。この時の経験を綴った子育てエッセイ『ママにはなれないパパ』2018年出版

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