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仕方なく引き受けた町内会の班長が、私の世界を広げてくれた 【自分らしい人生とキャリア Vol.1】

iction!の取り組みキャリア

2021年04月26日

少子高齢化、働き方の変化、テクノロジーの進化…。私たちを取り巻く環境が大きく変化しようとしている中で、「自分はこのままでいいのか」と不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。40代・50代・60代になると、これまで積み上げてきたキャリアがあるがゆえに「今さら自分に何ができるんだろう?」「家族のことを考えるとリスクのある決断はしづらい」と迷ってしまう気持ちもあるでしょう。そこで、このシリーズでは、人との出会い・つながりをきっかけに自分の人生・キャリアを大きく変えた当事者にインタビュー。決断のきっかけとなった人とのつながりにフォーカスしながら、はじめの一歩を踏み出すヒントをお届けします。

第1回目に登場するのは、片岡 博さん。片岡さんは、40代で上場企業の管理職から転職し、現在は仕事の傍らさまざまな団体・コミュニティに所属し活動しています。以前は仕事一辺倒だったという片岡さんが生き方を変えた「人とのつながり」とは、どのようなものだったのでしょうか。

片岡 博さん

片岡 博さん
大学卒業後、組込み系のエンジニアリングに従事。たまたま町内会班長とボランティア活動に参加したことをきっかけに、自分の生き方を見直し、転職を決意。現在はICカードの技術営業をしながら、「シックスセカンズジャパン」「Points of You」「Zen2.0」「横浜旭ジャズまつり」など幅広い団体・イベント運営に参加している。
家族構成:妻、子ども3人(大学生、高校生、小学生)
※掲載内容は、2021年4月末時点のものです。

≪つながりのきっかけ≫
地域活動を通して、知り合いが増えることの楽しさに気づく

地域活動を通して、知り合いが増えることの楽しさに気づく

── 片岡さんは、40代半ばまで上場企業で管理職を務めていたとお聞きしました。その当時は、ご自身のキャリアをどう考えていたのですか。

あの頃は残業も多く、家と職場を往復するだけの毎日でした。上司からのプレッシャーも大きくて…。でも、自分のキャリアや生き方にこれといった疑問はなかったんです。仕事は大変なもの。辛いのを我慢して、頑張って向き合うのが当然だと信じて疑わなかったですね。

── では、もっと仕事以外にも時間を使いたいとか、現在のような活動をしたいという気持ちもなかったのでしょうか。

もちろん、子どもたちと過ごす時間をもう少し増やしたいなとか、家でゆっくりしたいなとは思っていましたよ。けれど、積極的に外に出て新しいことをはじめようとは全く思っていなかったです。

── そんな片岡さんの気持ちが変化したきっかけは何ですか。

ある年に、町内会の班長を担当したんです。当番制でいつかはやらなきゃいけないものだったから、正直に言ってはじめは“いやいや”引き受けた感覚でした。ただ、いざ班長として町内会の活動に参加すると、地域の清掃やお祭りの手伝いを通して近所に知り合いが増えていった。それまでは自宅の両隣くらいしか顔見知りはいませんでしたが、班長を務めてからは街中で見かければ声をかけあうような関係が増えていったのが楽しかったんです。

── 自分から変化を求めて飛び出したというより、たまたま担当することになった役割で人とつながることの楽しさや新しい世界に気づいたんですね。

そうです。我が家で私が班長をやることになったのもタイミングのおかげによるものでした。というのもその時妻は専業主婦だったので、普段なら家のことや地域のことは主に妻が担ってくれていました。ただ、あの当時は一番下の子どもがまだ手がかかる時期で、妻が町内会の活動に参加するのは負荷がかかりそうで心配だった。だから私が引き受けました。もし子どもがもう少し大きかったら、私はやっていなかったかもしれません。

── 町内に知り合いが増えたことが、片岡さんの生き方にどう影響してくるのでしょうか。

はじめは自分の住む町内のことだけだったのですが、各町内会が集まる連合会の役員も務めるようになって、更に多くの人と知り合う機会が増えました。一緒に活動する中で職業の話や家庭の話などいろんな身の上話をするじゃないですか。それが私にはどれも新鮮で。以前は家庭と職場以外に人付き合いを増やそうなんて全く思わなかったのですが、たまたまやってみたら想像以上に楽しい世界が待っていた。この体験を通して、「何事もやってみなきゃ分からない」という価値観に変わっていきました。

≪つながりが導いた、キャリアの決断≫
今の環境が絶対ではない。自分には、他の選択肢もあるんだ

── 転職という大きな決断をしたのはなぜですか。

社外の人たちとのつながりのおかげでさまざまな働き方や職場の環境を知り、自分が当時勤めていた会社で信じてきた当たり前が、絶対ではないことに気づきました。今の環境にこだわる必要はないんじゃないか、自分には他の選択肢もあるんじゃないかと感じたことが一番の理由です。

── とはいえ、3人のお子さんがいらっしゃる立場でチャレンジをすることに不安はありませんでしたか。

もちろん不安はゼロではなかったです。妻からも「上場企業の安定を捨てて一体どこへ行くの?」と心配されました。家計を預かる立場として妻の意見はごもっとも。けれど、私としてはこの先も人生は長いのに、今のままつらいことに耐えるだけだったら後悔する気がしました。限りある人生の時間をもっと有意義に使えるように挑戦したいことを話して、最後は「あなたのやりたいことを応援したい」と理解してもらいました。

── 転職して何が変わりましたか。

一番の気づきは、環境によって働き方も考え方も随分と異なること。私はこれまで一貫してエンジニアリングの仕事をしており、転職後も携わる仕事や業界がまるっきり違うわけではないのですが、それでも会社が変わったおかげで、我慢が前提の働き方をやめることができました。いかに自分の見ていた世界が狭かったのかを実感し、より一層外の世界を見たい、仕事に限らずいろんな活動にチャレンジしてみたいと思うようになりました。

≪つながりを活かすヒント≫
コミュニティを広げるコツは、気負わずに“ゆるくつながる”こと

コミュニティを広げるコツは、気負わずにゆるくつながること

── 現在は、国際認定資格を取得したり、禅とマインドフルネスに関するカンファレンスのスタッフや音楽イベントの実行委員をしたりと、活動がバラエティに富んでいますが、どうやってここまで広がっていったのですか。

町内会から連合会の活動に発展したように、ほとんどは人とのつながりの中で広がったものですね。ひとつのコミュニティに参加すると、そこで知り合った人から「実はこんな活動もしていて…」と別のコミュニティの話を聞くことがあります。「興味があれば参加してみませんか」「可能なら次のイベントを手伝ってほしい」といったお誘いを受けるので、そのご縁を大切にしていたらいつの間にか広がっていた感覚です。

── まさしく片岡さんがおっしゃる「やってみなきゃ分からない」の精神ですね。

そうなんです。音楽イベントもあれば、防災関連の集まりもあるし、読書会や禅のコミュニティもあって、どれもはじめから強い関心があって参加したわけではないんですよ。知り合いの知り合いを辿っていくうちに、少しずつコミュニティの系統が変わって、結果的にさまざまな分野の集まりとつながりました。

── ほかに、コミュニティを広げるためのコツはありますか。

家庭でも仕事でもないので、ほどよい間合いを保つことが大事だと思っています。間合いが近すぎるとお互いに負担を感じてしまうし、つながりがなさすぎると孤独を感じて離れていってしまう。“ゆるくつながっている”くらいが丁度よくて、そのためにはSNSを活用するのも有用ですね。

私がSNSで意識しているのは、ゆるく・細く・長く。例えば何かのイベントを一緒に運営しているときは濃密にコミュニケーションを取るけれど、そうでないときはたまに情報交換をするくらいの関係性でもいい。その時々で距離感を変化させながらつながりを持つ前提で使うと、SNSは便利だと思います。

── 家族や職場の上司・同僚のように毎日一緒に過ごすような関係性とは限らないからこそ、SNSはちょっとした近況報告をすることにも使えそうですよね。

発信することで、「今、別の活動で忙しいんだな」と分かってもらうことにもなりますし、「あの人は、こんなことにも興味があるんだ」と別の一面を知る機会もある。興味のある人がコメントやDMで突っ込んでくれることもありますし、それをきっかけにまた新たなつながりが出来ていきます。

≪私の人生における、人とのつながりとは≫
やらないで後悔するより、やってみる人生でありたい

やらないで後悔するより、やってみる人生でありたい

── 仕事以外の活動や人とのつながりは、ご自身にどんな影響があると感じていますか。

私にとって人とのつながりは、人生を豊かにするもの。家族とのコミュニケーションも変わりましたね。以前は私自身が狭い世界しか知らなかったので、閉鎖的な考え方で家族と接していた部分もありました。今は仕事だけに追い立てられているわけではないので、心にも時間にもゆとりがあるし、考え方も話す雰囲気や接し方も変わったと思いますね。

また、仕事に対するスタンスもかなり変わりました。以前は、「自分のために与えられた仕事をまっとうする」だったのが、人との関わりが増えるうちに「誰のために仕事をするか」を意識するように。一緒に働く同僚のため、会社のため、世の中のため…と自分の仕事の意味を広げて捉えるようになり、仕事への向き合い方が変りました。

── もし片岡さんが、人生やキャリアに悩み・不安を抱えている同世代に相談されたら、どんなアドバイスをしますか。

“リスクを恐れて踏み出せない”という人には、「やらないことにもリスクがある」と話しますね。何もせず現状維持で後悔するくらいなら、やって後悔した方がよいじゃないですか。また、これは禅のコミュニティで学んだことですが、「ただ不安を抱えているだけでは不安の原因は解決しないのだから、不安に悩む時間はもったいない」という考え方もあるんです。もちろん、不安の原因を特定して取り除けるのであればよいけれど、漠然とした不安なら立ち止まる意味はあんまりないと思います。

── 自分のやりたいことが見つかってない人は、何から始めるとよいでしょうか。

仕事やキャリアにこだわらず、気になったものは何でも情報を取りに行くことからはじめるとよいのではないでしょうか。講演会に行ったり本を読んだりすることからでもよいと思います。また、自分が本当にやりたいことを見つけるため、自分の心の声を聞くとよいです。今のまま流れに身を任せて人から言われたことだけに対処する人生と、自分のやりたいことのために自らが船の舵を取る人生、どちらが良いか。私自身は後者を選んだからこそ人生が豊かになったと感じています。

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