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【副業事例】デジタル分野の経験を活かして老舗和菓子屋で副業。本業とは異なる環境だから、学べることがある

キャリア副業・兼業

2021年12月14日

【副業事例】デジタル分野の経験を活かして老舗和菓子屋で副業。本業とは異なる環境だから、学べることがある

「今の環境に大きな不満はないけれど、せっかくなら外の世界も見てみたい」「友人が副業の仕事で独立し、ちょっと憧れる」。今、自分のキャリア形成のために副業に関心を持つ人たちが増えています。しかし、実際に副業を行っている人は、4.0%(総務省調べ)。興味はあってもなかなかはじめるには至らないのが現状と言えるでしょう。

では、実際に副業をしている人たちは、どのように新しい仕事に踏み出し、本業と両立しているのでしょうか。そこでこの連載記事では、40代・50代で副業を行っている人にインタビュー。はじめたきっかけや本業との両立などを本音で語ってもらいました。

副業体験者Mさん

Mさん(40代・女性)

本業:消費財メーカーでデジタルマーケティングを担当。オンラインの販売促進施策の検討や広告ディレクションなどを手掛けている。

副業:石川県にある老舗和菓子屋のECサイトのリニューアル・改善やメールマガジンの配信・運用などを担当。同じ副業メンバー5名でチームを組み、Web戦略企画の全体に携わっている。

<副業のきっかけ>
いつかは起業したい。でも、今すぐ会社を辞めたいわけじゃない

<副業のきっかけ>いつかは起業したい。でも、今すぐ会社を辞めたいわけじゃない

──まずは、Mさんの現在までのキャリアを簡単に教えてください。

今は、消費財メーカーでオンライン上の販売促進を担当しています。何度か転職をしているのですが、一貫してデジタル関連の経験を積んできました。

──どうして副業をはじめられたのですか。

理由は二つあります。一つは、本業ではできない経験をしたかったから。もう一つはいずれ起業をしたいという夢があったからです。前者に関して言えば、私が普段の仕事で接するのは社内の人か取引先くらいで、学べることが狭い範囲にとどまってしまいがちだと感じていたのがそもそもの発端。そこで副業をする以前は何カ月か社外講座やセミナーに通っていたこともありますし、社会人向けのワークショップやインターンシップにも参加していたんです。

──知見を広げる活動の延長線に副業があったのですね。

そうですね。私の専門であるデジタル分野は非常に幅が広いので、少しでも多くの知見を持っていた方が役に立つだろうと思っています。

──そこまで学びに意欲的なのはなぜですか。

それは起業をしたいということとも関わりがあって。自分が何の仕事でご飯が食べられるかなと考えたら、やっぱりこれまでやってきたデジタルの仕事だとは思うものの、今はまだ会社を辞めて独立するまでの勇気はありません。

──だから、まずは副業で腕試しをしてみようと?

はい。インターンシップのような無償の就業体験からはじめ、単発でデジタル関連のご相談に応えるような「スポットコンサルティング」にも挑戦しました。そこでちょっとずつ自信をつけ、本格的な副業を探したんです。

<本業と副業 両立のコツ>
「ダラダラ」やらないこと。時間を決めて、メリハリをつける

<本業と副業 両立のコツ>“ダラダラ”やらないこと。時間を決めて、メリハリをつける

──今おこなっている副業の内容についても教えてください。

副業先は、石川県にある老舗の和菓子屋さんです。私はこのお店のデジタル戦略に携わっており、副業者5名でチームを組んで販促活動を支援しています。

──どうやってこの副業先に辿り着いたのですか。

自分の専門スキルを活かせる仕事があれば副業したいなとは思っていたのですが、どうやったらそんな副業が見つかるのか、誰に言ったら仕事をもらえるのか、全然分かりませんでした。そこで副業紹介サイトの存在を知り、チェックするようになったんです。ただ、いくら条件に合うからといっても、やたらめったら手を出すのも違うかなと悩んでいた時に、条件に合う仕事を私の故郷の企業でも募集しているのを見つけて。私が希望するデジタルの仕事、かつ地元に貢献できるなら是非やってみたいと手を挙げたのが、今の副業先です。

──副業の働き方を教えてください。

平日の日中は本業に専念しており、副業はそれ以外の時間を活用しています。作業は自宅や近所のカフェでおこない、副業先とのミーティングはオンラインで実施。コロナ禍で本業がほぼ在宅勤務なこともあって、片道約1時間かかっていた通勤時間がなくなった分を副業のために使っている感覚です。

──本業と副業を両立するためのコツはありますか。

コロナ前よりも時間に余裕があり、副業先がリモートワークを受け入れてくれているから実現できている部分も大きいとは思います。ただ、それでも忙しい時期はある。だから私が意識しているのは、「スケジュールや時間の管理をきっちりする」ことです。

例えば平日の夜を作業時間に充てるとしても、1時間か長くても2時間までと決める。収入のための副業であれば、もう少し違うやり方になるのかもしれませんが、私はあくまでもキャリアのための副業。本業あっての副業というスタンスなので、仕事の期日を意識しながら細かくペース配分するのが私のやり方です。

<副業のここがよかった/大変だった>
本業の仕事では出会えない人たちと知り合い、仲間になれた

<副業のここがよかった/大変だった>本業の仕事では出会えない人たちと知り合い、仲間になれた

──副業をする中で、苦労したことや大変だったことはありましたか。

これは副業に限った話と言うより社外に出たからという意味合いですが、デジタルの世界一筋で15年ほど経験している私でも、分かったつもりで知らないことはまだまだ多いと思い知らされました。特に、デジタルは進化のスピードがとにかく早いので、経験があるものでも定期的に情報をアップデートしないと時代遅れになってしまいます。

実は今回、オンライン販売のプラットフォームを変更することを検討したのですが、私は4~5年前に本業で経験があったので、自分の知識が活かせると思っていたんです。でも、実際に検討をはじめるとこの数年でトレンドはすっかり変わってしまっていて。過去の経験が通用せず、イチから勉強し直す必要がありました。苦労したことでもあり、学び直しのよい機会にもなった感覚ですね。

──本業とは異なる関係者とコミュニケーションする点でやりにくさはなかったですか。

やりにくい訳ではなかったのですが、本業以上に人との関係性や自分の立ち位置を意識するようになりました。副業先は取引先でもあり仲間でもあるような感覚ですね。例えば、あくまでもこの会社の主役は和菓子の仕事を本業とするみなさんであること。デジタルの専門家としての知見を求められているとはいえ、お店で直接お客様に接する人や職人さんたちの考えや意見を無視したものにすべきではない。彼らの声に耳を傾け、デジタルに縁遠い仕事をしている人にも分かるように平易な言葉や客観的事実をもとにやり取りすることを意識しました。

一方で、中に入り込みすぎて和菓子屋のみなさんと同質化しても私たちが呼ばれた意味がない。近づきすぎず離れすぎず、節度は守りながらも一つのチームとしてWIN-WINな協業にすることを大切にしていましたね。もしこれが副業ではなく転職だったら、そこまでは考えなかったと思います。

──副業と本業では仕事への向き合い方や関わり方が変わるということですか。

もちろん人それぞれだとは思いますが、私の場合は本業と副業で仕事の規模感も役割も違います。ある程度の人数規模のチームの中で与えられた役割に徹する本業と、小規模な分だけ自分の影響範囲が大きな環境で縦横無尽に仕事をする副業。どちらも同じデジタルの仕事ですが、関わり方は全く異なり、その違いを私は楽しんでいる感覚です。

──他に、副業だから得られたものはありますか。

先ほどの両立の話題にも重なりますが、タイムマネジメントの意識が上がったことでしょうか。在宅勤務で働き方の柔軟性が上がった分、主体的に仕事を動かすことが求められているので、これはどちらの仕事にも通じるスキルが高まった感覚ですね。

あと、今回は普段違う会社で働く5名でチームを組んでいることがとても大きくて。みんな近い経験をしているとはいえ、コンサルタントとして活躍している人、コンテンツ制作に詳しい人、Webデザインに長けている人、SNSの運用に詳しい人など、得意分野が異なります。

同じ目的を共有する仲間として、それぞれの知見を活かしあいながら刺激を受けられたのは、私が副業を希望する理由まさにそのもの。この出会いに感謝し、長いお付き合いができたらよいなと思っています。

<キャリアのために副業をはじめるヒント>
自分には当たり前のことが、社外ではレアな能力かもしれない

<キャリアのために副業をはじめるヒント>
自分には当たり前のことが、社外ではレアな能力かもしれない

──この先のキャリアについても聞かせてください。副業を経験して、考え方に変化はありましたか。

今の副業で一番感じたことは、私はやっぱり幅広くいろんなことを経験したり学んだりすることが好きだということ。普段の仕事ではできないことに挑戦し、そこから知識を得ることが楽しかったんです。だから、可能であればあと2つ~3つくらいデジタル関連で内容の異なる副業に向き合ってみたいです。

──副業を経験したことで、Mさんの中で本業の捉え方に変化はありましたか。

今の副業は業務委託でおこなっているので自由度は高いですが、熱が出ようが病気をしようが納期は厳守。自己責任の世界です。これが本業であれば、体調が悪いときはお休みをいただくこともありますし、周囲の助けも借りられる。会社という安定した基盤に守られて健全に仕事ができるのは、会社員のメリットだと実感しました。

また、バジェット(予算)の大きな仕事に携われるのは、ある程度の規模の会社で働いている魅力のひとつ。実は、別の副業でスポットコンサルティングの仕事をしたとき、個人の名前である会社に問合せをしたら、門前払いだったんです。実績・歴史のある会社の看板があるからこそできる仕事もあるんだなと思いました。

──Mさんのように副業にポジティブに踏み出せるにはどうしたらよいと思いますか。

私の場合は、何度か転職していることも大きいと思いますね。というのも、私がこれまで勤めてきたのは社内でさまざまな業務にチャレンジできるような社風・規模の会社ではなかったので、自分の役割とは異なる分野を経験したかったら、外に出るしか選択肢がなくて転職を選んできたんです。

もちろん私と全く同じ環境の人ばかりではないと思いますが、それでも会社員として働くのであれば、任された仕事が自分の希望と100%一致するのはなかなか難しいですよね。だからこそ、本業でできないことを外でやってみようという気持ちではじめてみるのもよいのではないでしょうか。

収入目的でなければ、副業に限らずいろんな方法もありますしね。NPOの活動にボランティア参加してもよいし、昔の私みたいにセミナー・ワークショップに参加することやちょっとしたお手伝いからはじめたってよいと思います。

──Mさんが「ちょっとしたお手伝い」から本格的な副業にステップアップできたのはなぜだと思いますか。

ある企業のECサイトに改善のアドバイスをしたことがあったんです。その場には会社の偉い方も参加されていたのですが、みなさんが私の話を熱心にメモして、たくさん質問してくださった。数カ月後には、アドバイス通りにECサイトが進化していました。

でも、実はその時、私としては本業で当たり前にやってきたことを話したくらいの感覚だったんです。自分の中の当たり前が、外の世界の人には当たり前じゃなかった。自分の持っている知見やスキルが困っている誰かの役に立ち、対価として報酬をいただける実感を持てたことが、一歩踏み出す自信になったのだと思います。

──最後に、副業をはじめようか迷っている方々に向けて、Mさんなりのポイントを教えてください。

副業に限らず社外への飛び出し方という意味で、私の友人の話をご紹介したいです。彼女は新卒から長く大手企業に勤めていたのですが、ずっと「私には外に飛び出す勇気がない」って言っていたんです。でも、私が社外のセミナーや講座で勉強していることを話すと、「それなら私にもできるかも」と通いはじめた。すると、そこでいろんな人と知り合って、気づけば転職をしていました。

彼女や私のように、最初はちょっとしたことから一歩踏み出してみるとよいと思います。その一歩目で自信をつけてから、二歩目三歩目に副業をしてみるのもよいし、「やっぱり今の会社で頑張りたい」と元の生活に戻るのだってありだと私は思いますね。

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