両立支援 iction!×北九州市 プロジェクト

北九州市×リクルート協働セミナー「人手不足解消と企業の持続的発展へ向けた2つの改革」

iction!の取り組み

2018年12月20日

女性の就業及び子育てとの両立支援を目的とした連携協定を結んでいるリクルートと北九州市。その取り組みの一環として2018年11月21日(水)に開催されたのが、「人手不足解消と企業の持続的発展へ向けた2つの改革」セミナーです。当日は北九州市内の企業経営者や人事担当者など約100名が参加。「働き方改革」や「業務改革」の最新事例、北九州市内の地元企業による改革事例などが発表されたセミナーの様子をお届けいたします。

人手不足時代を生き抜くための「タスク・マネジメント」という発想

人手不足時代を生き抜くための「タスク・マネジメント」という発想

北九州国際会議場で開催された当セミナーは、北九州市 女性の輝く社会推進室長 岩田光正氏から開会の挨拶を行う形でスタート。岩田氏は「北九州市×リクルート」連携協定の趣旨を説明するとともに、参加されている地元企業の皆さんと一緒に女性活躍や関連する改革等を進めていきたいとメッセージを伝えていました。

続いて登壇したのは基調講演のスピーカーであるリクルートワークス研究所 所長の大久保幸夫。セミナーの第一部である基調講演は、『人手不足下の経営改革−タスク・マネジメントという方法−』というテーマで実施されました。

まず大久保は現代の人手不足の特徴を紹介。「2018年9月の求人倍率は1.64倍で、これはバブル景気よりも高くいざなぎ景気(1973年)以来の水準だ。また、過去の人手不足との一番の違いは、労働人口の減少をはじめとした‟社会構造に起因した不足"であること。景気の波に起因した一時的なものではなく、今後も長期的に人手不足が続くことを前提に考える必要がある」と、人手不足の背景を説明しています。

そのうえで、企業が人手不足によって陥る悪循環のメカニズムを解説。「たとえば1人が離職した際に人員の補充(採用)ができないと、欠員分の業務が既存社員に圧し掛かり次なる離職の引き金になってしまう。放置していると従業員のモチベーションは下がり続け、ひとたび‟ブラック企業"というレッテルを貼られると、採用は非常に困難になる」と人手不足が企業経営に与えるリスクを紹介し、全国で人手不足を原因とした倒産が増加していることも伝えていました。

このようにリスクの大きさを伝える一方、大久保は「人手不足は大きなチャンス」だとメッセージ。「従来のやり方では採用が難しい時代だからこそ、これまでは時間や年齢的な制約のために社会で活躍しづらかった子育て中の女性やシニア層に注目が集まっている。どうすれば彼らを戦力として会社に迎えられるのか。各社が試行錯誤をする中で成功事例に共通するのは、ジョブ(仕事/求人)を‟タスク"に分解して考えるという発想だ」と、タスク・マネジメントという概念を持ち出しました。

タスクとは、一人のスタッフが実際になっている役割一つひとつのこと。たとえば店舗の販売職なら「レジ打ち」「接客」「フロアの清掃」...という具合に、そのジョブがどんなタスクによって構成されているのかを洗い出し、分解・整理することがタスク・マネジメントなのだといいます。

タスク・マネジメントは、「働き方改革」と「業務改革」を通した経営改革

タスク・マネジメントは、「働き方改革」と「業務改革」を通した経営改革

続いて大久保は、タスク・マネジメントの3つの方法を提示。

・「シングル・タスク」...あるタスクを切り出して他の人に任せたり、廃止したり、テクノロジーによって自動化する
・「マルチ・タスク」...ひとりが担当できるタスクを増やしたり、ひとつのタスクに複数人をアサインしたりして、相互に補完できる体制をつくる
・「タスクの組みかえ」...タスクの特性・難易度やスタッフの適性にあわせてタスクを割り振り、役割を入れ替える

上記方法について、実践している企業事例を紹介しながらその効果について語っていました。なかでも会場が聞き入っていたのは、 シングル・タスク化とマルチ・タスク化を合わせた取り組みで業績をV字回復したという神奈川県の老舗旅館「鶴巻温泉 元湯・陣屋」の事例。 元湯・陣屋では、従業員同士の情報共有にかかっていた時間を切り出し、AI・IoTの活用によって効率化。 さらに、マルチ・タスク化によってこれまで100人のパートが必要だったところを20人で実現できるように体制を変更したそうで、タスクに注目することで業務プロセスの劇的な改善ができている事例なのだといいます。

タスク・マネジメントは、「働き方改革」と「業務改革」を通した経営改革

また、この旅館の場合は倒産寸前という危機的状況から脱するために、働き方改革や業務改革を通して企業競争力の向上を目指した点が大変参考になるそう。 「マルチ・タスクによってスタッフの負荷が上がった分を週休3日にして緩和している点も秀逸だが、休業日を作ったことで副次的効果も生まれた。

定休日明けの木曜日の午前中は宿泊客がいないことから研修・教育に時間を割いており、人材育成が進み、サービスレベルの向上につながったという。 業務改善と従業員のスキルアップによって顧客満足が向上し、比例して客単価も上昇。 創出した利益は従業員に還元することで、更に意欲的に働けるという好循環ができており、まさしくこれは経営改革にほかならない」と語りかけていました。

大久保は、講演の終わりに「タスク・マネジメントのゴールは、働きやすさと働きがいのふたつを向上させること」だとメッセージ。 「タスクの無駄を省いて効率化すると、働きやすさが向上する。従業員がそのタスクを好きになり意義を見出す(高付加価値化する)ことで、働きがいが向上する。 このふたつが高まるとES(従業員満足)が向上し、ESが高い従業員が提供する商品・サービスはCS(顧客満足)を高めてくれる。 このメカニズムに注目すると、タスク・マネジメントは本質的には経営改革そのものだ。企業として競争力をつけるため、売上を上げ利益を得るための手法としてタスク・マネジメントを実践してほしい」と語っていました。

パネルディスカッションでは、北九州市内のダイバーシティ実践企業も登壇

休憩を挟んだ第二部では、多様な人材が活躍できる組織へと挑戦している北九州の地元企業にも登壇いただき、パネルディスカッションを実施。 極東ファディ株式会社 取締役 商品経営本部 副本部長の吉水請子氏と、株式会社戸畑ターレット工作所 代表取締役社長の松本大毅氏に両社の取り組みについてお話いただき、 第一部から引き続き登壇した大久保が、関連するトピックスをご紹介するという形式で進行。 ファシリテーターを高見真智子氏(株式会社サイズラーニング 代表取締役)が務めました。

パネルディスカッションでは、北九州市内のダイバーシティ実践企業も登壇

まず発表いただいたのは、コーヒーをはじめとした食品の卸・小売を手掛ける極東ファディの事例。同社では店舗の顧客の大半が女性であることから社内でも女性活躍を推進。 積極的に女性総合職を採用してきたものの、「入社後にキャリアアップの意欲を失い、男性のアシスタントに収まってしまう」ことに大きな課題を感じていたそう。

「女性が失った自信を取り戻すために、まずは小さな成功体験を積むことからはじめていった」という極東ファディでは、 女性だけのプロジェクトチームを結成し、継続的就業と成長を実現するための理想的な働き方‟夢シフト"を作成。 その過程で、体力的に女性には難易度が高い‟荷出し作業"を切り出して専任スタッフに任せたり、 短時間勤務のスタッフを採用して防犯を強化する(女性社員の不安を解消する)といった取り組みが進みつつあることが発表されました。

女性活躍がトピックスになった吉水さんの発表を受け、大久保が紹介したのは「従業員の育成」について。 「女性活躍推進をテーマにすると、『女性は管理職になりたがらない』という声が必ず聞こえてくるが、男性に比べて管理職志向が低い訳ではないと思う。 むしろ影響しているのは、働く環境や仕事の任せ方。極東ファディのように小さな成功体験を積むことで自信をつけることも重要だし、上司からの期待が言葉や態度で示されていることも重要。 これは、性別に関係なく人が成長していくうえで必要なことではないか」と投げかけていました。

続いて取り組みを紹介したのは、戸畑ターレット工作所の松本氏。金属部品の加工・製造を手掛ける同社は、昨今の人手不足でも特に深刻な業界であるため採用が喫緊の課題だったそうです。 「新卒も中途も、採用どころか応募者を獲得するにも苦戦していたため、従来の男性×フルタイムを前提とした採用では限界があると考え、多様な人材の獲得に動いた」と語る松本氏。

パネルディスカッションでは、北九州市内のダイバーシティ実践企業も登壇

現在の従業員比率を示しながら、女性30%、シニア10%、外国人15%と人材の幅が広がっていることを紹介。 6名の障がい者も雇用しているそうで、それぞれの特性にあわせた働き方や役割・仕事の任せ方にすることで、連携して製造に取り組んでいるそうです。

なお、このトピックスに関連して大久保は「制約のある人が働く場合こそタスク・マネジメントは有効」だと紹介。 「障がいの内容によっては、あるタスクは非常に苦手だが別のタスクは健常者よりも得意だという人がいる。 こうした特性を理解してタスクを任せていくと、彼らの活躍を実現するだけでなく経営上もメリットが大きい。 また、シニアや障がい者に見られるような身体的なハンディキャップは、テクノロジーによるサポートも随分と進んでいる。 そのため、いま制約だと考えられていることが近い将来に解消される可能性も高く、彼らの戦力化は多くの企業で期待できる」と語っていました。

変革を推進していくうえで立ちはだかる壁と、その乗り越え方

変革を推進していくうえで立ちはだかる壁と、その乗り越え方

その後は、ファシリテーターの高見氏から「順調に推進されている2社だからこそ、悩んだことや上手くいかなかったことを敢えて知りたい」と促され、 吉水氏と松本氏が実際に直面した困難について共有。吉水氏は「改革をはじめようとすると、『現実的には無理でしょう?』と言う抵抗勢力がどうしても出てくる。 変革したいマイノリティと既存のやり方を好むマジョリティの間に壁を感じることがあった」という本音を打ち明けてくれました。

変革を推進していくうえで立ちはだかる壁と、その乗り越え方

この問題に対して大久保は「どの職場にも抵抗勢力は必ずいるが、それを乗り越えた企業には共通点がある」とコメント。 「抵抗勢力は中間管理職の部長クラスである場合が多いが、彼らは変革の成果が出始めると態度を一変して強力な推進者になってくれるそうだ。なぜならそれだけ会社の業績に責任を持ち、真剣な人たちだから。

逆説的に言えば、部長たちを納得させられるような分かりやすい成果を上げるまでは、何を言われてもへこたれず推進していく強さが必要」とアドバイスしていました。

シニアや外国籍の従業員を多数雇用する松本氏は、「これまでとは違う属性の人たちと一緒に働くからこそ、はじめのうちはお互いを分かり合うことに苦労した」と、多様性のなかでコミュニケーションをとることの難しさに言及。特に外国人の雇用について「言葉の壁がある中で、現場でどう受け入れていくかが課題だった」と言います。この問題に対して松本氏は、「かつては社長や人事が現地で面接を行っていたが、最近は実際の配属先となる部署の課長が現地面接をしている。これが直属の上司部下の関係を向上させており、就労前にお互いを知る機会になっているだけでなく、課長はその国の文化にも触れるし部下となる人の両親や家族にも会って帰ってくるため、バックグラウンドを理解して指導するようになった」と紹介してくれました。

この手法には、「海外に工場を構える日本企業が現地従業員を雇用する際のノウハウと非常に近い。現地で信頼されるマネジャーは従業員のファミリーのことまでよく知っている」と大久保がコメント。ファシリテーターの高見氏からも、「"イクボス"に近い発想。外国人でも出産・育児をする女性でも本質は同じで、その社員が置かれている状況やバックグラウンドを理解してコミュニケーションするのが有効なのかもしれない」という意見が出ていました。

パネルディスカッションの最後は、セミナーに参加した企業経営者や人事のみなさんからの質問に登壇者がお答えする形で進行。会場から寄せられた質問の内容からは、女性やシニアの活用に挑戦しつつも課題を抱えている現状や、人材が多様化するのは避けられないとしつつも、企業としてどこまで個別事情に配慮すべきか試行錯誤されている様子が垣間見えました。

たとえば、「シニア(年上の部下)の働くモチベーションを下げずにマネジメントするには?」という質問も象徴的。これに対しては、「シニアにはそれまでの人生で培った経験があるからこそ、それを一部でも良いから活かすことで本人の人生が肯定される。つまりその人ならではの仕事を任せ、"あなただからこそ"という期待を伝えることが大切」と回答していました。

変革を推進していくうえで立ちはだかる壁と、その乗り越え方

また、「人材が多様化するほど組織運営が複雑になり、それなりのコストがかかるのでは?」という質問も企業としての率直な意見。こちらの懸念に対しては、「世界ではHRTechと呼ばれる人事関連のテクノロジーがとてつもないスピードで進化しており、複雑化する運用をAIがサポートするようなサービスも続々と誕生している。そのため、いまみなさんが新たに直面している人事課題も、世の中のテクノロジーにアンテナを張ってみると、解決に近づけるかもしれない」とコメントしています。

なお、2時間半のセミナーのラストには、当日の登壇者から「今後の挑戦」を発表。極東ファディの吉水氏は「人事課題は常にいくつかの問題が複合的に絡み合い循環しているからこそ、良くも悪くもスパイラルが発生しやすい。だからこそ、一つの問題を解決することで"正のスパイラル"を生みだしていきたい」とコメント。戸畑ターレット工作所の松本氏は、「多様な人材の採用を続けているが、社内のルールや仕組みがまだ追い付いていない部分があり、整備が必要。最高齢が80歳という組織の良さは育みつつも、日本の若手にもしっかりと技能継承できる組織でありたい」と、これからの挑戦を語っていました。

最後に大久保が伝えたのは、女性活躍の究極のゴールについて。「人手不足の側面ももちろんだが、今や消費者の志向がこれだけ多様化しているなかで、もはや男性だけ・女性だけの組織ではマーケットに対応できない。だからこそ、男性と女性が仕事のうえできちんとパートナー関係を築いていることが理想の状態ではないか。性別に関係なく役割を共有しあい、男女が組み合わさっている組織にしていくことが、究極のゴールだと思う」と語り、セミナーを締めくくっていました。

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