多様な働き方

人手不足が当たり前の時代に、いかに人材を確保するのか? 人材ポートフォリオ戦略から人事の担うべき役割を探る

職場マネジメント

2018年10月25日

2018年10月9日(火)、iction!事務局主催で開催したのが、「人手不足時代の人材ポートフォリオ戦略」セミナー。労働人口の減少が進む昨今、多くの産業で人手不足は深刻さを増しており、経営・人事における喫緊の課題です。その一方で、正社員を前提とした人材調達だけでなく、多様な手段で人材(労働力)・スキルを獲得している企業も現れはじめています。そうした実例を交えながら、新しい人材ポートフォリオ戦略や未来の人事の役割について発信・ディスカッションしたセミナーの様子をお届けいたします。

時間や場所の柔軟性、フリーランス、AI...。多様な労働力を取り入れる必要性

「人手不足時代の人材ポートフォリオ戦略」セミナー

イベントは、iction!事務局長の二葉美智子より今回のセミナー趣旨の紹介からスタート。 「iction!では主に女性の就業支援を手掛けてきたが、育児と仕事の両立を阻む1番のボトルネックは"働く時間"だった」と実態を紹介。 働きたいすべての人が週5日のフルタイムを望んでいる訳ではないからこそ、企業はもっと柔軟な方法で個人を受け入れられると、双方の可能性が広がるのではないかと投げかけました。

第一部で登壇したのは、リクルートワークス研究所 Works編集長の石原直子。 『多様化する人材調達手段のいま』と題した講演では、今や多くの企業で正社員にとどまらない人材調達がはじまっている現状について紹介しました。

たとえば、

・2017年に非正規雇用は雇用全体の約4割となり、もはやマイノリティではない
・フリーランスや自営業などが増え、政府も支援や仕組みの整備を検討しはじめた
・RPA、ロボット、AI、チャットボットなど、人以外のものによる代替も進んでいる

リクルートワークス研究所 Works編集長の石原直子

など、近年の事例・実績も交えながら労働力の多様化について説明。 特に「アルバイト・パート」「派遣社員」「フリーランス」「契約社員」のそれぞれについて、会場の参加者に自社で活用しているかをたずねたところ、 一番少なかったフリーランスでも全体の2割から手が挙がり、多様化が進んでいる実態が垣間見えました。

また、1990年代以降の日本の労働市場の変遷を交えながら、人材ポートフォリオ戦略にも変化が必要だと指摘。 「1995年に当時の日経連が発表した"雇用ポートフォリオ"は、正社員雇用に留まらない人材調達の可能性を提示した点は画期的だったが、 図らずも正規/非正規の格差拡大を招いてしまった。だからこそ、これからは非正規社員やフリーランスを人件費抑制のために活用するのではなく、 専門性の高いスキルをいかに社内に取り込むかという観点で捉え直すことが大切だ」と紹介し、人材ポートフォリオ戦略が、 様々な労働力をパズルのごとく組み合わせていくような複雑化・高度化していく未来も提示しました。

その象徴として、石原が語ったのは人事の役割変化。 「もはや人事が担っていく役割は、従業員の管理に留まらない。正社員や非正規社員はもちろん、 フリーランスやロボットをも含めたあらゆる労働リソースを適切にマネジメントしていくのが人事の役割になっていくだろう。 責任者の肩書も、"CHRO(Chief Human Resource Officer)"から"CRO(Chief Resource Officer)"へと広義の役割に変わっていくのではないか」と投げかけていました。

組織のコア業務に、外部のリソースを活用する企業も増えている

続いて石原が紹介したのは、フリーランスの活用事例。GEヘルスケア・ジャパン社では、日野にある最先端工場のPRを行うにあたって、 "工場を売り込む"という経験・スキルが社内にはないことから、社外で活躍する広報のプロフェッショナルに工場見学をはじめとしたPR活動のトータルコーディネーションを任せたといいます。 つまり、受注活動における重要なプロセスが、外部リソースによって成立しているのです。

また、ネットベンチャー企業であるアカツキ社では、経営企画部門30名のうち正社員はたった6名で、残りは週3〜4日働くフリーランスなのだそう。 経営の中枢である部門ですら、専門性と会社のカルチャーを満たすのであれば、従来の働き方にこだわらないのだといいます。 同社で働くみなさんは、フリーランスからスタートして社員になったり、社員からフリーランスやパラレルワークに切り替えたりと、 その時々で会社との関係を柔軟に変化させている様子。

リクルートワークス研究所 Works編集長の石原直子

経営側も、「雇用管理上の違いは、仕事のパフォーマンスとは関係がない」と感じているそうです。

このような事例を踏まえて石原が提示したのは、フリーランスや複業などを取り巻く世の中の変化です。

・フリーランスとして活躍している職種の増加(ビジネス系職種がフリーランスとして成立する時代)
・場所や時間に捉われずに働くという考え方が、企業・個人共に定着しつつある ・最適な人材と仕事をマッチングするためのプラットフォームの誕生
・「フリーランスのチーム」など、個人でも大きな仕事に対応できる仕組みの誕生
といった変化が追い風となって、外部のプロフェッショナルを企業が活用しやすくなっているといいます。

その一方で、上手く活用できるか否かは、企業側の進化が鍵になるのだそう。

・「安く外注する」ではなく、「自社に必要な専門スキルを持つ人と協働する」という発想
・同じ時間・場所で働かないからこそ、業務を整理して切り出し、明確なゴールを設定して仕事を依頼しなければならない
・もはや正社員だからといって無制限には働かせられないという共通認識
などが必要で、つまりは「どのような就業形態であったとしても、その人をプロとして尊重し、関係性を構築できるか」が重要なのだといいます。

最後に石原は、「日本の企業は、長らく正社員を自分の子どものような感覚で捉えてきた。 これは、長期的な育成という面では効果的だった一方で、仕事の任せ方や責任を曖昧にしていた部分もある。 これからは、正社員であっても一人のプロとして認め、その人に何を任せ、どこまで期待するのかを明確にしていくことが必要。 その考え方をあらゆる就業形態の人に広げてフラットに付き合っていくことができれば、多様な人材が活躍する会社になっていくのではないか」と語り掛け、第一部の講演を締めくくりました。

多様な人材が活躍できる職場は、就業形態による垣根がない!?

多様な人材が活躍できる職場は、就業形態による垣根がない!?

第二部は、パネルディスカッション形式で進行。企業の人材調達を多用な雇用形態で支援するサービスプロバイダとして、 ランサーズ株式会社の曽根秀晶氏と、株式会社リクルートスタッフィングの大塚綾乃が登壇。第一部から引き続きリクルートワークス研究所の石原も参加し、意見交換が行われました。

多様な人材が活躍できる職場は、就業形態による垣根がない!?

冒頭では、ランサーズ社とリクルートスタッフィングが手掛けるそれぞれの事業について紹介。 フリーランスと企業をマッチングするクラウドソーシング事業のパイオニアであるランサーズ社では、 近年パラレルワーカーの増加が顕著で、「大企業で働きながら、複業で自らのスキルを試しているような新たな志向の人も登場している(曽根氏)」という最新動向も語られました。

一方、リクルートスタッフィングでは、自社の派遣サービスを拡張して、『専門スキルを持つ人材が限られた時間で高い成果を発揮する』というコンセプトの「ZIP WORK」をスタート。 「短時間勤務の求人数も、時短の就業者も着実に増えているなかで、ZIP WORKを選ぶ人たちは仕事と育児の両立だけでなく、 ダブルワーカーや介護など、実に多様な理由で選択している(大塚)」ことも語りました。

多様な人材が活躍できる職場は、就業形態による垣根がない!?

その後は、ファシリテーターの二葉から、3つのテーマを登壇者に投げかける形式で進行。 一つ目は、「柔軟な働き方を活用できる企業と上手くいかない企業には、どんな差があるか?」というお題で、以下のような意見が展開されています。

曽根氏「活用が進んでいる企業は、社内の従業員と社外のフリーランスを分け隔てなく接している印象がある。 たとえば、フリーランスであっても従業員と同様に仕事に対する評価をフィードバックすることを重視しているし、 市場価格を踏まえながら適切なフィーを提示している。そうしたスタンスが、フリーランスのエンゲージメントを向上させることに成功しているのではないか」

大塚「人事制度や社内の慣習が壁になっている企業もある。 たとえば、周囲のスタッフとの公平性や、短い時間で高い成果を発揮するというZIP WORKERを既存の社員とどう連携していけばよいのかという点で躊躇しているようだ。 その点でいえば、柔軟に仕組みを変えてトライしてみることを良しとするベンチャー企業などは、一歩先に活用が進んでいる印象がある」

石原「何のために外部リソースを活用するかが明確になっているか否かの差でもあると思う。 旧来は『高度な仕事は新卒から育成した正社員が行う』ものだったが、それができるようになるまで育つには10年〜20年かかり、現代の変化のスピードには追い付けない。 だからこそ、できる人を会社の外まで探すことが必要で、協力してもらうための多様な手段を持っておいた方が見つかる可能性も上がるというのが、フリーランスやZIP WORKを活用するメリットでもある。この観点で人材調達の考え方をマインドチェンジすることが大切だ」

人事は、社会という視点で自らの役割を捉え直してもいいのではないか

二つ目のトークテーマは、「多様な人材が職場に入ることの副次的効果」。これについては、全員が単にスキルのある人材を調達できるだけでなく、 他の効果もあると回答。「異なる働き方をする人と協働するには業務の可視化が必須で、業務の無駄を省き、より本質的な仕事に集中できる効果がある。 また、常に同じ時間・場所で働く環境ではないからこそ、マネジメントスキルが磨かれやすい(大塚)」、「外部リソースを上手く使いこなせるようになると、 既存の従業員が自分のやるべきことと、プロに任せた方が良いことを組合せて仕事を進められるようになる。これは、AIやロボの活用にも通じる効果。 人工知能を脅威に感じるのではなく、どうしたら使いこなせるのかとポジティブに捉えられるのではないか(曽根氏)」と、多様化が進むことで社内全体でのスキルアップを望めることが語られました。

人事は、社会という視点で自らの役割を捉え直してもいいのではないか

最後のテーマは、「多様な働き方が進むと、人事の役割はどう変わるのか」。こちらは、以下のように三人三様の回答でしたが、 人事の役割や持つべき視点が広がっていくことが共通して語られていました。

曽根氏「HRTechの分野では、2018年のキーワードは"エクスペリエンス"だと言われている。

つまり、過去10年でUXやCXといった顧客の体験価値に注目することが当たり前になってきたが、これが人事領域においても重視されるべきだというメッセージに他ならない。 自社のために働いてくれる人が多様化すると、その分だけ提供すべき価値も多様化する。これまで社外の顧客に対して行ってきたように、 人事も従業員やフリーランスにどんな体験を提供できるかを考えていくことが必要だ」

大塚「一言でいえば、社内外にもっと"攻める"ことが必要だと思う。たとえば、派遣スタッフは現場の裁量で必要とされる 場合も多いが、 それゆえに成功事例など が部署に閉じやすい。ZIP WORKのような新しいスタイルをいち早く社外からキャッチアップし、現場の部門と一緒になって取り入れ、 ナレッジを全社に横展開していくようなアクティブな動きが今まで以上に求められるのではないか」

石原「明らかに人手不足であるという社会の現状に目を向けて、自社の中だけでなく社会全体でリソースを最適活用するという視点を持つことが、 結果的に自社の成果に繋がるはずだ。人それぞれ様々な希望や事情を抱えながら、それらと上手くバランスを取りながら働くことが当たり前の時代。 社内の枠組みに閉じているだけでは、限界があるだろう。社会との接点のなかで個人の能力を最適化する視点が、人事には必要になるのかもしれない」

人事は、社会という視点で自らの役割を捉え直してもいいのではないか

その後は、会場からの質問に答える形で進行。「社員の副業を、会社はどう受け入れたら良いのか(副業規定の考え方)」 「多様化が進み、外部の専門スキルを取り入れることが当たり前になると、人は誰が育てていくのか(社員育成について)」といった質問があがっていました。 それに対して登壇者からは、たとえば「副業の効果として、従業員がスキルや知見を吸収し本業にも還元されることを期待するなら、 必然的に本業と重複する仕事になるため、"競合企業での副業禁止"といった細かな規定で縛ることは期待と矛盾している。 会社の不利益になる副業はしないといった最低限のルールのもと、『自己責任を前提に認める』方針で運営した方がフェアではないだろうか(曽根氏)」など、それぞれの知見から意見を述べ、セミナーを締めくくりました。

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