多様な働き方

【フランスの働くを考える 第8回】フランス人の副業者は600万人

企業事例副業・兼業

2024年02月14日 転載元:リクルート ワークス研究所

【フランスの働くを考える 第8回】フランス人の副業者は600万人

インフレと暴動の関係性

フランスでは9月に新年度がスタートする。バカンスで散財したフランス人たちが「副業」に勤しむシーズンでもある。今年は特に不況下における歴史的なインフレという背景も重なり、メディアでも「副業」の話題が多く取り上げられている。事実、食料品の価格は2023年3月時点で前年同時期に比べ平均16.3%も上昇している(※1)。たとえば、インフレ以前のバゲット1本の値段は1ユーロ前後であったが、現在は0.50ユーロ値上がりし1.50ユーロ前後となっている。主食が小麦(パン)であるフランスでこの値上がりは影響が大きく、人々の生活をさらに圧迫している。

フランス革命は「小麦価格の高騰」で食べられなくなった民衆の暴動がきっかけに起こったが、インフレ時には社会不安や暴動が起こる確率が高くなる。今年6月に発生したフランス各地での暴動は数週間も続いたが、これもインフレなどで生活が苦しくなった人々が日頃の鬱憤を吐出したものであった(※2)。物価上昇に連動して賃金が上昇することもないため、収入を上げる選択肢として必然的に「副業」が浮上する。


フランス人と「副業」

フランスで副業を行う就業者数は2016年の400万人から、2022年には600万人へと増加している。これは、労働力人口のほぼ4分の1に当たるとされている(※3,4)。昼は企業の会計部に勤務し、夜はショッピングセンターのセキュリティーとして働くなど、時にまったく異なる複数の職務を組み合わせていることも多い。こうした労働者をフランス政府は「マルチアクティブ(multi-actifs)」と呼称している。主な事業形態は下記の3つである。「1つの給与所得活動と1つの自営業活動」は純粋な「副業」に当たる。「2つのパートタイム給与所得活動」や「異なる2つ(もしくは複数)の自営業活動」は「複業」とみなすことができるだろう。

フランスでは、雇用契約書で副業が禁止されていない限り、副業は法的に可能であるが、たとえば労働時間では、雇用主だけではなく、労働者も法定最長労働時間を守る必要がある。最長労働時間は原則として、1日10時間、1週間で48時間で、合計労働時間がこれを超えてはならず、それぞれの雇用契約にある所定の労働時間を超過した場合は割増手当が支払われる。ただし、自営業者や研究職、個人宅での事業などはこれに当てはまらない。その他、社会保険、税制の面でも基本的に同じ規則が適用される。

マルチアクティブは若い世代に限定された活動ではない。退職金を得ながら副業で収入を得る退職者も増加傾向にある。INSEEが2018年に実施した雇用調査では、55歳以上の年金受給者のうち、退職年金を受給しながら働いている人は4万8000人(3.4%)であった(※5)。生き甲斐を取り戻したい、長年培ってきたノウハウや技術をシェアしたい、退職金だけでは生活が苦しいから、などが副業を始めた主な理由である。


(※1)https://www.lemonde.fr/economie/article/2023/03/29/l-inflation-alimentaire-atteint-16-3-dans-les-supermarches_6167399_3234.html
(※2)暴動のきっかけはパリ近郊での警官が引き起こした少年の死亡事件である。
(※3)https://qonto.com/fr/blog/creation-entreprise/micro-entrepreneur/freelance-pluri-activite
(※4)Salon SMEによる2022年6月の調査 : https://www.salonsme.com/telechargements/Salon_SME_2022_CP_Slashers
(※5)https://drees.solidarites-sante.gouv.fr/sites/default/files/2021-01/Fiche%2023%20-%20Le%20cumul%20emploi-retraite.pdf

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