『リクルートエージェント』×『スタディサプリ』で東京都の職業体験事業に参画。子どもの未来に貢献する、新たな協働のかたち

左から、東京都 子供政策連携室 プロジェクト推進担当部長の臼井宏一さん、リクルート まなびDivisionの笠井康晴、インディードリクルートパートナーズ HRエージェントDivisionの田邊智亮

左から、東京都 子供政策連携室 プロジェクト推進担当部長の臼井宏一さん、リクルート まなびDivisionの笠井康晴、インディードリクルートパートナーズ HRエージェントDivisionの田邊智亮

2025年度、東京都は都内の中高生が夏休み期間を利用して企業・団体で職業体験をするためのプロジェクト「Job EX」を展開。体験プログラムを提供する企業として、オンライン学習サービス『スタディサプリ』を有するリクルートのまなびDivisionと、転職支援サービス『リクルートエージェント』を手掛けるインディードリクルートパートナーズのHRエージェントDivisionが協働で参画しました。自治体と企業が連携することで、子どもたちの未来にどのような効果を生み出せたのでしょうか。東京都子供政策連携室プロジェクト推進担当部長の臼井宏一さんと、まなびDivisionの笠井康晴、HRエージェントDivisionの田邊智亮に本年度の取り組みを振り返ってもらいました。

目次

自治体と民間企業。役割は違えど、子どもたちへの想いはひとつ

― まずは東京都の臼井さんにお伺いします。職業体験事業「Job EX」は、中高生から東京都への政策提案を受けて実現したものだそうですね。

臼井: はい、この事業は令和6年度(2024年度)から実施している「中高生 政策決定参画プロジェクト」のなかで、中高生に議論・提案をしてもらった内容を東京都の施策に反映したものです。根幹にあるのは、令和3年(2021年)4月に施行された「東京都こども基本条例」。子どもは「社会の宝」、「権利の主体者」であり「社会の一員として意見を表明することができる」と規定しています。この方針に則って、中高生に都の政策について意見表明してもらったところ、出てきたのが「職業体験」のニーズでした。職業体験を希望する中高生と、機会を提供してくれる企業・団体をマッチングするサイトをつくってほしいという提案を受け、立ち上げたのが「TOKYO中高生職業体験サイトJob EX」です。

― 中高生は、なぜ「職業体験」を求めていたのでしょうか。

臼井: 従来から、学校の授業の一環として企業見学などの機会があったものの、中高生たちが求めていたのは、さらにもう一歩踏み込んだ体験。「大人と一緒に働いてみる」「若者の立場から事業に提案をする」など、より主体的に社会に参加してみたいという意思を感じました。それは、おそらく時代性もあるかもしれません。変化が目まぐるしく先の見えない時代を生きているからこそ、より深く大人たちと接点を持ち、社会について詳しく知った上で自分の将来を考えたいという中高生が着実に増えている気がします。

東京都 子供政策連携室 プロジェクト推進担当部長の臼井宏一さん

― 続いて、リクルートのおふたりに伺います。今回、東京都の職業体験事業にプログラムを提供する企業として参画したのはどのような背景があるのでしょうか。

笠井: 実は、東京都からお声がけをいただく以前から、リクルートでも独自にキャリア教育の取り組みを始めていました。起点になったのは私が所属するまなび事業。私たちは『スタディサプリ』を通じて子どもたちの学習支援を行っており、学校単位でも導入いただいていることから、高校の先生方を中心に教育現場の皆さんと日常的に接点を持っています。そのなかでよくご期待の声を頂いていたのが、キャリア教育について。学校の先生方も明確な答えがないなかでどう指導していくべきかと相談を頂くことが多かったのです。真の意味で子どもたちのためになるキャリア教育を実現するには、学校を卒業する時点の「進学」「就職」に役立つだけでなく、中長期のキャリア形成なども見据えた学びの機会を提供したい。そうした想いで協働を持ちかけたのが、田邊さんが所属するHRエージェント事業でした。

田邊: 転職支援サービス『リクルートエージェント』を展開する私たちの事業でも、若年層のキャリア支援にもう一段踏み込みたいと思っていました。大学生の就職活動における内定取得時期および採用活動の早期化が一層進んでいますし、転職も珍しくない時代です。その結果、なかには漠然とした考えで就職・転職・離職してしまう若者も。十分な経験・スキルが身に付かないまま次のキャリア選択が困難になるケースを見てきました。これは社会全体の課題であり、解決するには、私たちの事業のど真ん中である転職支援のタイミングだけではなく、もっと早い段階からアプローチしていきたい。ファーストキャリアを選ぶよりもさらに前の中高生に、キャリアについて考える機会を届けていきたいと考えていた矢先にまなび事業から声をかけてもらったんです。

笠井: そこで私たちは、『スタディサプリ』導入校の一部に向けて、『リクルートエージェント』のキャリアアドバイザーを派遣したキャリア教育の出張授業をしました。その活動があったからこそ、東京都から職業体験事業にお声がけいただいて率直に嬉しかったですね。行政と企業という役割の違いを越えて目指している方向は一緒なのだと共感し合えたからこそ、組織を横断した参画がスピーディに決まりました。

― 東京都はリクルートのどんなところに期待して参画を依頼したのですか。

臼井: 私が大きく期待していたのは、事業を通じて若者と豊富な接点をお持ちの会社だからこその知見です。また、笠井さんがおっしゃったように学校教育のリアルな課題もご存じだからこそ、中高生のニーズを捉えた魅力的なプログラムを実施いただけるのではないかと期待していました。

リクルート まなびDivisionの笠井康晴

自らの好奇心に従って、自分の手で進路・キャリアを選択する、難しさと面白さ

― リクルートの職業体験プログラムは、2025年8月4日~6日の3日間で実施されました。どのようなコンテンツだったのですか。

笠井: 1日目は、キャリアアドバイザーの仕事体験です。職業について知ってもらうとともに、この仕事を通して、中高生の進路選択にも効果的な「自己分析」や「自己理解」を促す内容にしています。2~3日目はリクルート流の事業企画・商品企画を体験してもらう場で、社内の新規事業提案制度「Ring」のフレームを中高生向けにアレンジし、自ら問いを立てて解決のアイデアを提案することにチャレンジしてもらいました。

― このプログラムを提供したのはどうしてですか。

笠井: これは、私たちが独自で高校に提供していたキャリア教育のプログラムをベースにしており、子どもたちに届けたい学びの根幹はこれまでと大きくは変わりません。しかし、既存のプログラムはあくまでも学校の授業の一環としてやることが前提だったので、1~2時間という限られた時間の枠のなかでは、要素をかなり削ったものにする必要がありました。その点、今回は3日間という時間でじっくり取り組んでもらえるからこそ、本来中高生に届けたかった機会をフルパッケージで盛り込みました。

田邊: 私たちがこだわったのは、職業について理解を深めてもらうことだけでなく、体験を通じて今後の進路・キャリア選択を「自分起点」で考えるきっかけにしてもらうこと。キャリアアドバイザーが実際に求職者とキャリア面談をする際には、対話をしながら求職者の強みや本質的なニーズ・悩みを引き出し、求職者本人が心から納得のいくキャリア選択ができるように支援していきます。そうしたプロセスを疑似体験することで、中高生自身が進路を選ぶときも、安易に周りの意見に流されるのではなく「自分の好きなこと・得意なことってなんだろう」「将来どうなりたいんだろう」と深く考えてほしかった。人生の選択に100点の正解はありません。ないからこそ、決断するのは難しい。でも、自分で考え抜いて飛び込んでいくからこそ、難しくて面白い。進学や就職のタイミングだけでなく、大人になっても一生考え続けるものだと知ってほしかったんです。

インディードリクルートパートナーズ HRエージェントDivisionの田邊智亮

― 東京都の臼井さんはリクルートのプログラムをどう感じましたか。

臼井: 私が特に印象に残っているのは、2~3日目のプログラム。「自分の半径5メートル以内にある身近な問題から新たな事業・サービスを考えてみる」というアプローチが非常に良かったです。今、学校教育でも探究学習やアントレプレナーシップ教育に取り組んでいますが、リクルートの皆さんが大切にされてきた思考法はこれらに通じる部分が大いにあるなと感じました。中高生が自分の身近な関心事をきっかけに社会課題を自分事として捉え、解決につながる事業プランを検討するというプロセスは、座学では経験できない貴重な体験。これは中高生だけじゃなく、われわれ大人の世界でも非常に有効なメソッドだと思いますので、10代のうちに身に付けておくのはすごく価値のあることだと思いました。

― 中高生に仕事・事業を見てもらうことで、企業側にも学べることがあったのではないでしょうか。

笠井: 中高生から「AIを業務にどう活用していますか」と質問された時にはドキッとしましたね。彼らの視界からすると、もうAIはあって当たり前、使って当たり前の存在なんだと。

― 中高生からすれば「自分たちが大人になる頃には人の担う仕事が大きく変わっているのではないか」という危機感があるからこその質問なのかもしれませんね。

田邊: だからこそ、AIが従来の仕事に変化を与えると予測される未来で人はどのような価値を発揮すべきかを問いかけられたのだとも思っていて。どんなにAIが合理的な結論を導き出しても、最後に選択するのは生身の人間ですから、簡単に決断できるものではない。そんなときに相手の想いも汲み取りながら背中を押してあげることが、キャリアアドバイザーをはじめとした私たちの介在価値なんじゃないかなと、改めて考える機会になりました。

リクルートが提供した職業体験プログラムの概要。3日間のプログラムを通じて、仕事体験のみにとどまらず、自分の「わくわく」から将来のはたらくを繋げる体験を提供。主に「体験」と「提案」をするプログラムとなっています。DAY1の自己理解パートではキャリアアドバイザー体験、DAY2の課題発見パートでは企画職仕事体験、DAY3のアイデア発信パートではビジネスプランプレゼン大会を実施。リクルートが提供した職業体験プログラムの概要

行政と企業、事業と事業。異なる強みを掛け合わせた協働で、社会に新たな価値を

― 「Job EX」に参加した中高生や企業・団体からはどのような声が上がっているのでしょうか。

臼井: 参加者アンケートでは、参加した中高生のうち95%からポジティブな評価を頂いています。また、この体験を通して仕事への関心が高まったという割合も9割を超えており、中高生にとって有意義な機会を提供できたと捉えています。一方の企業・団体からも、先ほどリクルートのおふたりからも話があったように、中高生からの問いかけが自分たちの事業や仕事を見つめ直すきっかけになったという意見もありましたね。また、中高生に伝えるプロセスを通して自らの仕事や事業の価値を再認識し、モチベーションが向上したというお話もよく伺っています。

― 職業体験事業について、東京都の今後の展望を教えてください。

臼井: 東京都は多種多様な業種・業態が集積している地域です。初年度である今回は40の企業・団体に参加いただきましたが、次年度以降はさらに多様な職業体験ができる状態を目指して規模を拡大し、東京都だからこそできる取り組みに育てていきたいですね。それは、子どもたちの未来のためであると同時に、社会を構成する全ての人のためでもあります。中高生が社会のさまざまな大人たちと関わり学びを得る裏側で、大人たちも中高生の視点・意見から気づきを得て、事業やサービスがより良くなり、社会全体も良くなっていく。普段は交わることが少ないさまざまなステークホルダーをコーディネートして新たな機会をつくることも、私たち行政の役割だと思っています。

東京都 子供政策連携室 プロジェクト推進担当部長の臼井宏一さん

― リクルートのおふたりは、子どもたちの未来への関わり方をどう考えていますか。

田邊: 昨年度からの一連の取り組みを通して感じているのは、リクルートの組織の垣根を越えた協働の意義です。私が所属するHR事業のサービスは基本的に社会人や就職活動中の学生向けのものですが、求職者一人ひとりが納得のいく選択をするには、仕事探しをするもっと前から働くことやキャリアについて意識的に考える機会を提供したい。この夏のプログラムでも改めてそう実感したからこそ、今後もリクルートならではの学習体験を子どもたちに届けたいです。

笠井: まなび事業の私としては、「探究学習」「アントレプレナーシップ教育」に注目しています。臼井さんもおっしゃっていましたが、こうした教育で言及されている「自ら問いを立て主体的に解決をしていく力」とは、まさしくリクルートが創業以来大切にしてきたことなんです。アントレプレナーシップを体現する会社として、学校や自治体の皆さんとも連携しながらこの学びを届けていきたいですね。一方で、今回のプログラムに参加してくれた中高生は、比較的自律性が高く、もともとキャリアに関心があったことも事実。より多くの中高生に機会を届けていくためには今の形にとらわれず、あり方を柔軟に模索したいです。

田邊: そのためには私たちがこれまで以上に中高生を知る必要があると思っています。特に東京都はさまざまなバックグラウンドを持つ子どもたちが集まっており、学習環境もニーズもさまざまなはずです。だからこそ、私たちの視点だけでなく行政の視点で見えていらっしゃることも取り入れながら、最適な学びのあり方、届け方を考えていきたいです。

臼井: おふたりからそういったお話を聞けて良かったです。東京都としては子どもたちが求めている体験型の学習機会を提供したい想いはあるものの、都が独力でそうしたプログラムを実現することはなかなか難しい。一方で民間企業のなかには既に素晴らしいコンテンツを提供されているところもあるものの、それを1社単独で多くの中高生に届けることはなかなか大変なのではないでしょうか。だからこそ、東京都がイニシアチブをとって“点”の取り組みを“面”に広げていきたい。行政と民間企業が連携し、お互いの強みを補完し合うことでより多くの子どもたちに機会を届けていきたいと思います。

鼎談いただいた和やかな雰囲気の3名

【Profile】

臼井宏一(うすい・ひろかず)
東京都子供政策連携室 プロジェクト推進担当部長
1997年入都
主税局、教育庁、総務局、子供政策連携室を歴任
教育庁の在籍が長く、人事・予算・議会・都立高校関係の業務を主に経験

 

田邊智亮(たなべ・ともあき)
株式会社インディードリクルートパートナーズ
エージェントサービス事業 HRエージェントDivision 企画統括部
CSサービス企画推進部 CSサービス推進1グループ
兼務
エージェントサービス事業 HRエージェントCSサービスDivision CSサービス統括部
エントリーキャリアカスタマーサービス部 大学支援プロジェクト
東京都教育庁を経て、2023年に入社。HRエージェント領域において主に大学生や社会人経験が短い方向けの就職・転職支援サービスの企画推進を担当

 

笠井康晴(かさい・やすはる)
株式会社リクルート まなびDivision クライアントサクセス推進部 クライアントサクセス企画グループ
IT通信の会社を経て2018年に入社。まなび領域において主に高校向けの『スタディサプリ for SCHOOL』の営業企画・営業推進を経て現職

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