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両立支援の専門家 菊地加奈子先生が教えてくれた、女性の本音、人事・上司の本音

2018.09.25

日本における出産後の女性の就業率は、2012年から13%も伸び53%に。ワーキングマザーや妊娠中の女性が職場にいるケースは確実に増えています。しかし、中には就業率は上がっても"活躍"とまでは言えない場合や、他の社員との公平性の問題など、壁にぶつかっている企業が多いのも事実。その原因はどこにあるのでしょうか。今回は、iction!プロジェクトの両立支援サービス『カムバ!』『カムバ!ボス版』に監修協力いただいた、社会保険労務士法人ワーク・イノベーション代表の菊地加奈子先生にインタビュー。両立支援に関わる人事制度や就業規則の専門家であり、企業の実例を知る菊地先生に教えていただきました。

―妊娠~職場復帰までの期間において、女性はどんな問題を抱えている場合が多いのでしょうか。

単刀直入に言えば、"不安で身動きが取れなくなっている状態"です。育休面談では、人事から女性に復帰後の希望を聞くことが一般的ですが、そこで彼女たちの口から出てくるのは、「不安です」という言葉がほとんど。「こういう働き方で活躍したい」という前向きな意見よりも、「どうなるか分からないのでペースを落としたい」という消極的な意見が多いようです。

子どもを優先したいという気持ちはよく分かるのですが、「私が働くと会社に迷惑をかける」とか「周りに負担をかけるのが申し訳ない」といった理由も多く、"育児と仕事を両立する限りはまともに働けない"という考えで過度に心理的なブレーキがかかっているのではないでしょうか。

その原因のひとつにあるのは、情報の波に呑まれてしまっていること。今の時代、インターネットで簡単に情報が手に入るのは便利なものの、なかには真偽が不確かなものもありますし、すべての話が自分にあてはまるとは限りません。本当に有益な情報を取捨選択しないまま鵜呑みにして、両立に消極的になっている人も多いです。

一方で、身近にロールモデルがいないというのも過度な不安に繋がっている理由ですよね。大企業の場合は、ママ社員同士の交流会を開くなど対策を講じている企業も増えていますが、中小企業の場合は「今年はじめて女性が職場復帰する(それまでは退職するのが通例だった)」というケースもいまだに珍しい話ではありません。

このように、どちらの場合も「適切な情報を適切なタイミングで得られない」ために不安が大きくなっていると言えるでしょう。ただ、そうなっている原因が女性だけにあるかと言えば、人事や上司からの働きかけが少ないことも一因。不安解消に繋がる施策や働きかけがないことや、何気ない無理解・無遠慮な言動が彼女たちの働くことへの意欲を奪っている側面があると思います。

―では、企業側はどんな悩みを抱えているのでしょうか。

女性側の悩みにも密接に関連しているのですが、妊婦やワーキングマザーなど制約のある社員をマネジメントするための知見が絶対的に不足していることです。ハラスメント行為は持ってのほかですが、逆に腫物に触るような対応をしてしまい、女性側が過剰に権利を振りかざすようになった、いわゆる"お妊婦様"のケースも増えていますね。

また、育休中の社員や時短社員を抱える組織は、当事者をケアすれば良いだけではありません。休業や時短の分は、ほかの誰かが業務の穴埋めをするケースがほとんど。その状態に目を瞑っていると、みんなが疲れていきますし、社員同士の公平性も失われてしまい、"制約のある社員が歓迎されない雰囲気"が生まれてしまうでしょう。結果的に組織全体の士気が下がってしまいます。

いずれの場合も共通しているのは、女性を支援したいという考えで動きながら上手くいっていないということ。良かれと思ってやったことが女性には逆効果になり、周囲にも悪影響を及ぼすような現象が起きている根本にあるのは、妊娠中の社員や仕事と育児を両立する社員を、よく理解していないことだと思います。

―女性も上司・人事も適切な情報が不足しているという問題を抱えている。これは、菊地さんに監修いただいた『カムバ!』『カムバ!ボス版』の想いとも共通しますね。

そうですね。社労士の私がiction!プロジェクトに共感したのは、女性と企業のどちらにも向き合いながら、それぞれをフラットな立場で応援している姿勢。『カムバ!』も『カムバ!ボス版』も、そのスタンスが反映されており、過度な応援でも保護でもなく、安心して一歩前に踏み出していけるような勇気づけのサービスだったことが、私が最も共感したポイントです。

だからこそ、私自身も法令や人事制度の知見を活かしながら、「働きたい」という女性や「女性の力に期待している」企業のみなさんの背中を押してあげられるような監修を心掛けました。サービス全体の印象としては、『カムバ!』では検診や保育園のことなど痒い所に手が届く情報提供やタスクリストなど、「これを見ればわかる!」というものになっているのが良いですね。『カムバ!ボス版』では、そもそも妊婦さんをどう扱って良いか分かっていない企業が多い現状において、マタニティマネジメントの基礎知識を身につける有効な手段だと思います。

私自身もお付き合いのある企業様に導入を進めていますが、特に中小企業はノウハウが少ないところが多いので、ベーシックな知識習得に役立っているようですよ。知識を身につければ対策も講じやすくなり、「フルタイムか、できなければ辞めるか」のような白黒はっきりとした選択しかできない世の中ではなく、もっとグラデーションのある選択ができるようになるはず。そうした多様な働き方を当たり前にすることこそ、本質的な両立支援だと思います。

―多様な人が活躍できる職場を実現するためには、何からはじめたらいいでしょうか。

まずは、企業側が「制約のある人たちが働くとはどういうことか」を、もっとリアルに理解しないといけないでしょうね。私は社労士として人事を担当する方々にお会いしますが、時々お見掛けするのが、「妊婦やワーキングマザーに関する法律・就業規則などのルールは完璧でも、それ以上は関心がない」という人です。

たとえば法令上、育児を理由とする短時間勤務が可能なのは子どもが3歳未満の場合ですが、3歳になった瞬間に親がフルタイムに戻れるかといえば、相当に難しい家庭がほとんど。ルールだからと何の対策も講じないのは、「フルタイムに戻れない=うちの会社では働けない」とメッセージしているのと同じではないでしょうか。このように、仕事と育児を両立する実態が分かっていないと、規則やルールを社員に押し付けているだけで、不安解消には繋がりません。

また、人事だけでなく直属の上司が妊婦の体調などを理解することも大切。たとえば、産休は出産予定日の6週間前からと労働基準法で定められていますが、それ以前は元気に通勤できるかといえば、そうとは限りませんよね。つわりが酷かったり、貧血気味になったり。お腹を守りながら満員電車に乗るのも危険です。それを理解して時差出勤や在宅勤務も考慮できると、辛い想いをしてまで出勤させるよりも高い生産性が期待できるはず。想定外の事態が起きることも考え、早めに業務の引き継ぎ先をアサインしてあげるのもお互いの安心になるでしょう。

妊婦もワーキングマザーも一人ひとり事情が違いますから、一律のルールや制度だけではカバーしきれないことも多々あります。それを最大限理解し、話し合いながら着地点をみつけていくことが大切だと思います。

プロフィール

  • 社会保険労務士法人ワーク・イノベーション 代表
    株式会社ワーク・イノベーション 代表取締役
    菊地 加奈子先生
    厚生労働省中央介護プランナー/神奈川県ワーク・ライフ・バランスアドバイザー 早稲田大学商学部卒業後、総合商社の子会社から大手銀行の教育研修機関を経て、妊娠・出産を機に退職。専業主婦のときに社労士の資格を取得。社会保険労務士事務所の代表をしながら、2012年に株式会社ワーク・イノベーションを設立。2013年に保育園「育みの家 フェアリーランド」を開園。育児介護と仕事の両立・女性活躍推進・保育園の開園コンサルティング・保育園の労務管理といったテーマを中心に企業と女性の双方をサポートする活動を精力的に展開。現在5児の母。

iction!プロジェクトとは?

iction!は「はたらく育児」を応援するプロジェクトです。企業や自治体と一緒に「しごとも子育てもしやすい世界」をつくるお手伝いをしています。