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障がい者iction!のイベント

障がい者雇用は、ケアとフェアのバランスが成功の鍵。楽天とリクルートの事例から障がい者雇用の可能性を考える【iction!セミナーレポート(2019年11月開催)】

iction!の取り組みイベント

2019年12月26日

2019年11月19日(火)にリクルートGINZA8ビルにて実施したイクション事務局主催セミナー。「障がい者の可能性を最大限に活かすマネジメントとは?」をテーマに、社会の動向や企業の事例を交えながら、障がいを持った方がその人らしく働くことができる職場について、会場のみなさんと共に考える場になりました。当日は、特例子会社で障がいを持つ社員と向き合う人事担当者やダイバーシティ推進の責任者などを中心に、約150名の方々が参加。人事労務の専門知識や特例子会社でのマネジメント・評価の仕組みなど、基本となる考え方から実践的なヒントまでお伝えした、当日の様子をご紹介します。


障がい者雇用に真剣に向き合うほど、社内全体の働き方改革も進んでいく

障がい者雇用に真剣に向き合うほど、社内全体の働き方改革も進んでいく

セミナー当日は、2部構成で進行。第1部は、人事労務の専門家である鳥飼総合法律事務所 パートナー弁護士の小島健一氏をお招きし、『「障がい者雇用」は働き方の決め手!成功する障がい者雇用とは?』と題した基調講演を行いました。

長年人事労務の問題に取り組み、産業保健にも関わってきた知見から、「障がい者雇用は今の日本の職場が抱えている問題を解決する鍵になるのではないか」と語った小島氏。特に、企業全体の働き方改革を進めるための糸口にもなり得ると言います。

鳥飼総合法律事務所 パートナー弁護士の小島健一氏

「働き方改革は、単に労働時間を短くするだけでは会社の業績が下がるだけ。真の働き方改革とは、働き方自体を根本的に変えること。長時間労働をやめることで、社員が仕事以外のさまざまなことに時間を使い、人として豊かに生きられるようにすることも目的の一つ。

そして、もう一つの目的が、従来の働き方では働くことに支障がある人々をやりがいのある労働に参画できるようにすること。つまり、"健康経営"と"ダイバーシティ経営"こそが働き方改革の本質だ」

このように語った上で小島氏は、「障がい者が働きやすい職場は、みんなにとっても働きやすい職場になる」と、ダイバーシティ経営における障がい者雇用の重要性を紹介。たとえば女性や外国人の場合は、男性的な働き方や日本的な振舞いを真似するなど、本人が職場に"同質化"することも不可能ではないですが、障がい者の場合は、個人の意思ではどうにもならない部分もあります。だからこそ、真のダイバーシティ&インクルージョンを実践するには、障がいや病気を抱えている人をチームの一員として受け入れていくことが大切だと語ります。

では、どうすれば障がい者雇用は上手くいくのか、そのポイントとして小島氏は、配慮のやり方に言及しました。

「周囲の配慮は必要だが、配慮してばかりでは本人が仕事で能力を発揮している実感が得られず、職場にいづらくなってしまう。配慮はするけれど、その分組織の戦力として期待するような"お互い様"の関係を作れないと上手くいかない。自律と助け合いを組織に根付かせ、チームメンバーの一人として参加・包摂すること。配慮とやりがいのどちらも欠けてはいけない」

また、「何のための配慮か」という趣旨で、当事者の強みを発揮するための「合理的配慮」を行うことを紹介。「できないこと」以上に上手くいっていることや大切にしていることに注目すると良いそうで、個人の持つ能力を最大限発揮するための障壁を取り除くような考えで配慮をすることが効果的なのだそうです。

講演の終盤、小島氏は、障がい者雇用のポイントについて、これらは障がい者だけにとどまらず、会社や人事が社員に向き合う際の普遍的なものだと強調。「一人ひとりとの対話を忘れないでほしい。対話の際は、相手の立場になりきって考えたり、自分の立場も俯瞰して見るような視点の切り替えが重要。また、事実と認識の違いに敏感になり、事実ベースで公正に接することも大切。そうしたフェアな姿勢で向き合いながらも、最終的には当事者への期待を示し続けること、支援はするけどあくまでも当事者の手で困難を乗り越えてもらうという姿勢で向き合うと、障がい者の真の活躍が開けてくるのではないか」と講演を締めくくっていました。

個々の能力が活きる仕事の任せ方など、特例子会社2社の事例を紹介

第2部では、障がい者雇用で独自の取り組みを進める企業が登壇。パネルディスカッションを実施するにあたって、各社の取り組みを紹介いただきました。

最初に発表いただいたのは、楽天の特例子会社である楽天ソシオビジネス株式会社 代表取締役の川島 薫氏。0歳のときに先天性両股関節脱臼と診断され、自身も身体障がい者手帳を持つ川島氏は、自社の取り組みの歴史を「自分たちで仕事をつくりだすところからのスタートだった」と振り返ります。

楽天ソシオビジネス株式会社 代表取締役の川島 薫氏

「私が入社した当初は親会社の楽天にもノウハウがなく、法定雇用の目標を達成するために人を採用したのは良いが、主体的に働ける社員が少なく出来る仕事も限られてしまっていた。成長を意識する社員も少なく、一般企業から特例子会社への転職した私はその現実に驚いてしまった」

そこで川島氏は、親会社の人事・総務から窓口業務を受託。社員一人ひとりに担当業務をアサインし、仕事に対する責任感を持たせることからはじめ、窓口業務から手続き業務へと仕事の幅を広げていったそうです。自ら働きかけ仕事を獲得していく過程で、障がいの特性を活かした仕事にアサインする工夫にたどり着いた。

「たとえば、経理書類のチェックや管理業務は発達障がい者の得意業務。他の人が気づかないような細かな間違いに気づいてくれる。また、楽天オフィス内の社員向けコンビニエンスストア運営をはじめた際は、決済手段をキャッシュレスにすることで、知的障がいのスタッフが会計業務を担えるようになった」

また、楽天ソシオビジネスでは、障がい者の成長を支援するために楽天グループ共通の人事評価制度から独自のものへと変更。より細かく明確な評価基準を設けることで、一人ひとりの「何ができるか」「何が強みか」にフォーカスされるような人事評価を運用していることも紹介されていました。

川島氏に続いて登壇したのは、リクルートの特例子会社である株式会社リクルートオフィスサポートの三井正義。1990年の設立後、約30年の歴史のなかで大切にしてきた「ケアとフェア」の考え方を中心に、自社の取り組みを紹介しました。

株式会社リクルートオフィスサポートの三井正義

「当社で働く多くの人には、何らかのケアが必要。だからこそ適切なケアによって個々が力を発揮できるようにし、その成果を障がいの有無に関係なくフェアに評価する、というのが私たちの思想。オフィスのバリアフリー化や時短勤務制度など、働きやすい環境は整えるので、自分のベストを尽くしてくださいねというメッセージが形になったものだ」

多様な障がい区分の人たちを受け入れていく過程において、社内には慎重派の意見もあったと三井は言います。それでも前に進めていくためには、全社で勉強会を開くなど「正しい知識の浸透」と、当事者に能力を発揮してもらうことが効果的で、「受け入れ当初は懐疑的だった人たちも、彼らの能力の高さを実際に見たことで一気に理解が進んだ」と、拡大の道のりを語っていました。

また後半では、リクルートオフィスサポートが現在推し進めている地方に在住する障がい者の在宅勤務(テレワーク)による雇用についても紹介。3年間で障がいのあるスタッフを90名採用し、うち82名が継続している。その半数以上は、一般的には職場定着が難しいといわれる精神障がい者だ。この定着率の高さについて、三井は「自宅という慣れた環境で働ける安心感によるものも大きいが、それ以上にICTによってスムーズなコミュニケーションを常時行い、チームで働く感覚が強いことが起因している」と説明。また、一人で内職をするのではなく、仲間と働けるから続けられるというメンバーの声も紹介しました。

評価制度や管理職登用...。成長と活躍を引き出す秘訣をディスカッション

パネルディスカッション

2社の紹介を経たパネルディスカッションでは、司会を務めたイクション事務局長の二葉美智子がいくつかのテーマを投げかけ、川島氏と三井が答える形で進行しました。はじめのテーマは、「ケアとフェアの実践」について。川島氏は、改めて入社直後の楽天ソシオビジネスを振り返ると、ケアはされていたが評価(フェア)はされていなかったと感じるそうで、受けている仕事の幅も狭く、能力の高い社員であっても、低い社員であっても給与に大差なく能力の高い社員は仕事にも給与にも満足できず辞めて行き、いつまでも仕事の幅を広げて行くことはできない。この悪循環を変えるために売上を上げることができたら社員の給料もあげて欲しいと親会社にお願いしたそうです。

それに関連して、リクルートオフィスサポートの三井は、グループ各社からの期待に言及。「自社としてそれなりにプライドを持って業務を担ってきたつもりだったが、あるときグループ各社に率直な意見を求めると、『障がい者雇用の文脈で仕事をお願いしている』という本音を言われ、まだまだ自分たちは道半ばであることを受け止めた。グループ会社に甘えているだけの存在では、社内もフェアな状態にはならない。本当に価値のある存在として進化しないといけないと感じた」と自身の体験を紹介していました。

また、この2社のエピソードについて、第1部から続いて登壇いただいた弁護士の小島氏もコメント。「2社の話は、障がい者雇用や特例子会社だから起こるものではなく、人事コンサルティングを行っているとあらゆる会社で耳にする話。ケアは甘やかすのではなく、能力を発揮してもらうためのもの。社員の能力が発揮できる環境を整え、正しく評価されることも必要だ」とお話いただきました。

次のテーマは、「障がい者が活躍できる仕事のつくり方」。こちらのテーマでは、「待っていれば活躍できる仕事がやってくるわけではなく、我々が活躍できそうな業務の噂を聞きつけ、自分から手を挙げて仕事を獲得してきた感覚(川島氏)」。 「在宅勤務は、適した仕事を見つける前に、まず少人数採用した。少しずつさまざまな仕事をお願いし、一番成果を出せる仕事を見極めていった(三井)」という意見が紹介されました。

また、両社とも管理職の約半数を障がい者が務めていることから、任用のポイントについてもディスカッション。リクルートオフィスサポートでは、リーダー以上の人事評価制度でミッショングレード制を運用しており、任せるミッションの大きさによってポジションが上下するという前提のもと、「やらせてみよう」と期待を込めた任用を行っていること。ミッショングレード制のため、管理職だけでなく専門職として大きなミッションを担う道もあることが示されました。一方、楽天ソシオビジネスの川島氏は、"小さな階段をつくること"を推奨。本人の意欲を尊重しながら、一旦サブリーダーを1年ほど任せてみて、問題なければリーダーへ。それができれば更にその先へとステップアップできるよう、じっくり見守ることもポイントなのだそうです。

なお、ICTを活用して雇用の機会を広げているのも2社の特徴。「音声ソフトや点字のディスプレイを活用することで、全盲の社員がマクロを組んでいる(川島氏)」、「ここ数年でテレビ会議やチャットツールが大きく進化しており、上手く活用すれば距離の制約が問題にならない(三井)」と柔軟に最新技術を導入しながら障がい者の活躍を引き出しているのが印象的でした。

会場ともディスカッションしながら、あるべきマネジメントを考える

パネルディスカッションでは、会場の参加者からも質問・疑問を寄せていただき、みなさんと一緒に障がい者の活躍に向けたポイントを語っていきました。

たとえば、当日は特例子会社の人事担当者の参加も多かったことから、「親会社の障がい者雇用への無関心」や「グループ全体の方針やカルチャーにどう合わせるべきか」といった質問も。

このような疑問に対して、リクルートオフィスサポートの三井は「リクルートグループは急カーブで成長したい人が集まり、卒業して行く人も多い。持続的な雇用を求めている障がい者が幸せになれないのではないかという迷いもあった。しかし、SDGSや働き方改革など、社会が多様な人たちの活躍を推進し多様な働き方を用意するようになった今、私たちも変わらないといけないという想いでグループ会社と向き合っている」とメッセージ。一方、楽天ソシオビジネスの川島氏は、親会社への働きかけ方について「直接言うよりも、対外的な発信が耳に届くようにするのが良い。今日のようなセミナーや、本の出版・メディア出演など、私たち自身が積極的に外へ出ると、私たちの存在や活動の意義に気づいてもらいやすい」と具体的なテクニックを含めたアドバイスをされていたのが印象的でした。

他には、「精神障がいの社員から、自分はキャリアアップが難しいのではないかと良く相談を受ける」と、評価の仕組みや方法についてのアドバイスを求める人もいらっしゃいました。人の気持ちを汲み取るのが苦手な彼らにとって、マネージャーになるために必要な人材要件は、非常に難しいものだからです。

これに対しては、「管理職には向いていない人が、それを凌駕する能力を持っている人がいる。そんな人たちに報いれるように、管理職とは異なるキャリアアップの道を設けるのも手段の一つ(三井)」、「曖昧な人材要件の言葉が彼らを不安にさせているのかもしれない。評価の基準を曖昧にしないこと。ダメなことにフォーカスがあたるのではなく、得意なことが可視化されるような評価をすると、自信に繋がるのでは(川島氏)」と回答していました。

また、2社とも人事評価制度の変更を実施してきた歴史があるため、会場では「制度変更のアナウンス方法や理解・浸透のやり方」も関心が高かった様子。こちらの疑問に関して2社の意見は共通しており、「自立・挑戦・共生という会社のビジョンに紐づいて評価制度を変更しているので、その順番で話すことで違和感なく浸透した(川島氏)」、「会社の3ヶ年計画の立案が発端で、その実現のために変更したので、"ありたい姿"を示したうえで新制度を提示した(三井)」と、どちらも制度単体ではなく、会社全体の目標を実現するための文脈から説明することで、社員の納得感に繋がっているそうです。

質疑応答の後は、リクルートグループの障がい者雇用支援サービスであるアビリティスタッフィングを紹介。リクルートスタッフィングが手掛ける本サービスは、障がい者の「採用支援」「職場定着支援」及び障がい者の活躍を目指す職場の風土醸成が特徴。「企業・個人のさまざまな不安を安心にかえて、ひとつでも多くの就労機会をつくっていきたい」と、会場へメッセージし、2時間半のセミナーは終了しました。

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