ミドルシニア 40代後半~60代前半の働く価値観調査

Vol.5:副業ニーズは高いが、いまだNGの会社も。40代・50代・60代が求めている人事制度・サービス

調査レポートキャリア副業・兼業

2021年01月14日

Vol.5:副業ニーズは高いが、いまだNGの会社も。40代・50代・60代が求めている人事制度・サービス

45歳~64歳の働く価値観調査レポート。最終回のテーマは、「将来の仕事や働き方について考え始めた40~60代には、どんな支援が効果的なのか」です。

就労環境を変える・変えないに関わらず、自らの意思で前向きにキャリアを決めていく個人が増えることは、本人はもちろん企業や社会にとっても望まれる姿。定年制度の見直しやジョブ型雇用への転換など、世の中全体でさまざまな構造改革が走る中で、「年齢を重ねてもまだまだ仕事で輝きたい」と願う人たちを置き去りにしないためには何が必要なのでしょうか。

調査結果から見えてきたミドル・シニアの本音をもとに、今求められる人事制度やキャリア支援のサービスをご紹介します。

※詳しい調査の背景・対象ついては、「調査にあたって」をご覧ください

6割以上が就労環境を変えたいが、今の会社によってその挑戦を阻まれている人も

図1:就労環境を変える意向とその手段
就労環境を変える意向とその手段
就労環境を変える意向とその手段

※転職、起業、副業・兼業、社内公募による異動・転勤、出向などから「この方法で就労環境を変えたいと思っている」の回答(複数回答)を集計

図1のように、いずれかの手段で就労環境を変える意向がある人は、67.3%。同じ環境に居続けようとする人よりも、異なるチャレンジをしてみたいと考える人が多数派なようです。では、具体的にはどのような選択肢を検討しているのでしょうか。社内外で環境を変えられる複数の手段を提示したところ、最も支持されたのは「副業・兼業」でした。

仕事を変える手段としてメジャーな「転職」を抑えての1位であり、「今の環境を手放さずに新たな環境に挑戦できる」「複数の収入源を持てる」といった安心感も手伝った結果だと言えそうです。

また、図2のように、キャリア意識別では「自信なし層」や「将来不安層」ほど副業の関心が高く、年齢別では若い世代ほど副業に興味を持っていることからも、「試しに外へ出てみる」手段として、不安な気持ちが強い人にも支持されていることがうかがえます。

図2:副業実施状況と意向
副業実施状況と意向

その一方、「副業・兼業をしたいと思っているが、勤め先の制度で認められていない」と回答した人が全体の3割強いたのも注目したい結果です。副業を後押しする政策もあり、近年は就業規則を見直す流れが少しずつ広がってはいますが、まだまだ禁止している企業が多い現状も見えてきました。

「自分の能力を測りたい」「年代にあった人材マッチングサービス」が2大ニーズ

人事制度や働き方の変革は、企業が従業員に向けたキャリア支援に繋がる一方で、広く社会に目を向けてみると、キャリアに関するアドバイスやコーチングが受けられるサービスもあれば、人材紹介やヘッドハンティング会社による求人サービスもあり、ミドル人材やシニア人材に特化した内容を謳うものもあらわれています。

そこで私たちは、45歳~64歳が求める仕事やキャリアに関連したサービスについても調査。40歳以降にキャリアに大きな影響を与える決断をした人に対象を絞り、「実際は利用していないが、あったらよかったと思うサービス」を回答してもらったところ、「社外に通用するスキルを再発見・証明してくれるサービス」と「ミドルシニアの自分の年代にあった人材マッチングサービス」のニーズが高い結果になりました(図3)。特に「自信なし層」は「社外に通用するポータブルスキル研修」のニーズも高いことが特徴。第一の壁「自信の壁」を突破するためにも、「自分のスキルが社外に通用すること」を認識できるサービスへのニーズが強いことがうかがえます。

図3:実際は利用していないが、あったらよかったと思うサービス【キャリア意識別】
(40歳以降にキャリア決断をした人のみ回答)
実際は利用していないが、あったらよかったと思うサービス【キャリア意識別】

また、同じ調査結果を年齢別に見てみるとニーズがやや異なる結果に(図4)。45~49歳は、「社外に通用するスキルを再発見・証明してくれるサービス」のニーズが最も高いのですが、「人材マッチングサービス」の必要性が上の年代よりも相対的に低く、具体的な行動に移すための支援はそこまで求めていないことが分かります。それが50代に入ると、自己能力を客観的に評価してもらうニーズよりも人材マッチングのニーズの方が上回る傾向にあります。

図4:実際は利用していないが、あったらよかったと思うサービス【年齢別】
(40歳以降にキャリア決断をした人のみ回答)
実際は利用していないが、あったらよかったと思うサービス【年齢別】

つまり、若い層ほど「将来に備えてまずは自分の市場価値を知ること」が効果的で、定年が近づくほど、「セカンドキャリアに向けた具体的なアクションプラン」もセットでの支援を求めていることがうかがえます。こうした期待に応えられる機会やサービスが社会全体で増えると、自分らしく働き続けられるミドル・シニアも増えていくのかもしれません。また、ミドル・シニア本人にとっては、今すぐ動きたいわけではなくても、まずは自分の強みを可視化するところからはじめ、タイミングが来たらすぐに行動に移せるような、長期的・継続的にフォローやアドバイスを受けられる存在を見つけておくのも有効だと言えます。

COLUMN―専門家の視点―
変化の機会は身近なところから創りだせる

リクルートワークス研究所 大久保幸夫

リクルートワークス研究所 アドバイザー 大久保 幸夫

1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート入社。1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年~2012年内閣府参与を兼任。2011年専門役員就任。2020年株式会社リクルート フェロー、リクルートワークス研究所 アドバイザーに就任。人材サービス産業協議会理事、Japan Innovation Network 理事、産業ソーシャルワーカー協会 理事なども務める。専門は、人材マネジメント、労働政策、キャリア論。

ミドル・シニアになると、若手の時のようなジョブローテーションによる配置転換が行われる機会が減り、仕事の習熟度が高いために新しく何かに挑戦をする機会も少なくなるのが一般的です。つまり、若手に比べて「圧倒的に変化が少ないこと」が、キャリア意識にも影響していると考えられます。

会社員にとって最も分かりやすい変化は"出世"ですが、残念ながら出世は全ての会社員に与えられた権利ではありません。しかし、本当にほかの人たちに変化の機会がないかと言えば、そうではないでしょう。近年は副業・兼業などを解禁する動きも見られますが、企業が社内で変化の機会を提供することは、既存の人事制度の枠組みの中でもそこまで難しいことではありません。

例えば、一つの部門に在籍する年数に上限を設けること。これは業務の属人化を防いだり、横断的に会社を見る目を養ったりする意味でも有効で、経営幹部を育成するためのいわゆる「サクセッションプラン」にも通じます。ほかには、社内公募制を導入することでキャリアの流動性を高めるのも一つの手法。また、異動はせずとも、「通常の業務内容とは別に自分でテーマを設定したミニプロジェクトに取り組ませる」ということで仕事に変化をつけることは可能です。

その一方、変化をしたいと思っていながら、なかなか足を踏み出せずにいる気持ちも分かります。では、実際にキャリアの決断をした人はなぜできたのでしょうか。多くの人に共通するのは、時期を決めていることです。例えば「今の仕事は55歳で一区切りにする」と、節目の年齢を期限にしている。全ての人が先のキャリアまで見据えて決断している訳ではないのですが、先に区切りを決めたことで、今後の人生を真剣に考えたり、自分が持つ能力を見つめ直したという人もいます。変化に不安はつきものですが、一度その壁を乗り越えてしまえば、二度目三度目は慣れてくるもの。まずは自分自身に決意表明をすることから始めるのも一手ではないでしょうか。

連載の終わりに

世の中は「年齢を重ねても自分らしく働き続けられる社会」へと動き出しました。たしかに、社会の仕組みや働き方の選択肢は変わりつつあります。でも、肝心の個人は働くことをどう考えているのだろう。まさに今定年を迎える前後にいるシニア層や、そう遠くない将来その時期が訪れるミドル層に本音を聞き、みなさんの悩みに寄り添った応援の仕方を考えてみたい。今回の調査は、そんな想いが出発点です。

アンケート結果から見えてきたのは、20年、30年と仕事を続けてきた経験豊富な人たちでも、少なからず不安があること。本当は長年にわたって培ってきたスキルや知見をお持ちなのに、自信を持てずにキャリアの決断を思いとどまる人が多いことです。その一方、自分らしい人生を歩むべくキャリアを切り拓いているミドル・シニアのみなさんもいる。私たちは、この差が生まれる原因を解消することが、多くのミドル・シニアがそれぞれの人生を元気よく歩むことにつながり、ひいては日本全体も元気になるのではないかと考えました。

「自分に自信を持つ」、「環境を変える不安を払拭する」、「実現したい理想の姿を描いて行動する」。私たちは調査結果からミドル・シニアが自律的にキャリアを考えていくための3段階を導き出しましたが、全てに共通するキーワードは、「変化」です。実際に行動を起こしている人は、今の仕事・環境とは異なるところに身を置くような変化によって、客観的な視点で自分自身や"外の世界"を見つめ、新たな人生の可能性に気づいていました。

また、この変化とは人生を変えるような大きなものだけではありません。日常の中の小さな一歩でもよいことが、当事者のみなさんの声から見えてきました。「社内のミニプロジェクトに参加した」「社外の研修に参加した」「趣味の仲間から褒められた」...。ほんの少しの変化が、自分の将来を考えるきっかけになったという人もたくさんいます。自分らしいキャリアを歩めるのは、特別な経験をしてきた人だけではなく、本来は誰にでも実現できる可能性がある。今回の調査結果は、そんな希望を示してくれたのではないでしょうか。

この調査結果がひとりでも多くのミドル・シニアや周囲の人々に届き、みなさんそれぞれが自分らしい第一歩を踏み出すために役立ちますように。

これからも私たちiction!は、十人十色の働き方を応援し、多様な人が活躍できる社会の実現を目指して活動を続けます。

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